富士通からPC事業が分離する形で2016年2月に発足した富士通クライアントコンピューティング(FCCL)。2018年5月、FCCLはLenovo、富士通と日本政策投資銀行の3社による合弁企業に生まれ変わった。
「合弁」とはいうものの、出資比率ベースで見ると、現在のFCCLは「富士通グループ」ではなく「Lenovoグループ」に属する。しかし、FCCLは研究・開発や生産体制においてLenovoから独立した位置を保ち続けている。
Lenovoグループ入りから約1年半。FCCLはどこが変わり、何処が変わっていないのか。齋藤邦彰社長に話を聞いた。
―― FCCLがLenovoとの合弁体制になっておよそ1年半が経過しました。企業経営の面、あるいは製品開発の面で合弁の成果は発揮できているのでしょうか。
齋藤社長 私たちの事情もありますが、去年(2018年)はCPUの調達で苦労する場面もありました。その点では(Lenovoとの合弁が)役に立ったと思います。
―― CPUの調達面では効果が出ているということですか。
齋藤社長 そうですね。出荷台数でいえば(LenovoはFCCLの)17倍ほどの規模がありますからね。
製品面では、相互補完するイメージになっています。Lenovoはワールドワイドでシェア1位です。それゆえに、たくさん売るために(価格を抑えられる)エントリーモデルに偏ってしまいがちです。
それに対して、私たちは販売台数を強いKPI(経営上の指標)としては持っておらず、お客さまから付加価値への対価をどれだけいただくかという点に注力してきました。そのため、ハイエンドモデルに注力してきた経緯があります。
エントリーとハイエンド――このような観点から見ると(Lenovoとは)相互補完の関係が構築できていると思います。
―― 元々の親会社である富士通との関係性はどうでしょうか。変わったことと変わらないこと、それぞれ教えてください。
齋藤社長 (富士通から独立して事業を行っているのは)コンシューマー向け製品だけなので、関係性はあまり変わっていません。(筆者注:FCCLの法人向け製品は富士通を通して販売されている)
―― 富士通との人的交流もあるのでしょうか。
齋藤社長 続いています。むしろ(現在の親会社である)Lenovoよりも活発です。
―― Windows 7の延長サポート終了が間近で、PC業界全体で駆け込み需要が増えています。それが終わった後、PCの売れ行きはどうなるでしょうか。終わった後を見越した対策はしているのでしょうか。
―― ある程度は落ち込むと見ています。ただし、台数ベースで見ると、Windows XPのサポート終了時よりは(マイナスの)影響は少ないのかなと思います。
PCの買い換え需要が少ないのは、ある意味では健全ともいえます。(PCを買ってもらうという観点で)OSのサポート終了ばかりに頼るのも良くありません。
―― Lenovoは、日本で「NECレノボ・ジャパングループ」も展開しています。その傘下にあるレノボ・ジャパンやNECパーソナルコンピュータ(NECPC)との関係はいかがでしょうか。少し前に、NECブランドPCの40周年記念発表会(参考記事)ではビデオメッセージを寄せていましたが、同じ「親」を持つ「兄弟」として何か交流があるのでしょうか。
齋藤社長 全くありませんね。ブランドが(互いに)独立しているからこそ、それぞれの顧客基盤を築くことができます。同化を進めてしまうと、顧客基盤が壊れてしまいます。
なので現時点では、独立性の高さを保つ方針で事業を進めています。情報が入ってこないからこそ、先日は(NECPCに対して)ビデオメッセージを寄せられたという面もあります。
―― FCCLが兄弟に勝っている所は何でしょうか。
齋藤社長 お客さまの声に応えられる「カスタマイズ」でしょうか。例えば、生命保険会社向けの端末や学校向けのタブレットでは、フルカスタマイズ(個別設計)して納入したこともあります。
フルカスタマイズは、自前の設計・開発部門を持っていることと、基板から「メイドインジャパン」で作れることから実現できています。「こういうものが欲しい」という要望に、迅速に応えられるのが強みです。
―― フルカスタマイズとは、単にコンシューマー向け、あるいは法人向けに出ているモデルの構成を変えるというのではなく、完全なオリジナルモデルも出しているということですか。
齋藤社長 先ほどの例でいうと、生命保険会社向けの端末はそうです。「セールススタッフが持ち運ぶ気になるPCを、いくらでも払うので作ってほしい」という要望を受けて作りました。
スタッフがPCを持ち運べるようになると、顧客先でクロージング(契約処理を完了)できます。持ち運べるようになる前は、バックヤード(営業拠点)に戻って処理をしていたようです。わざわざ戻らずに済めばその分のコストを削減できて、次の顧客先に直接向かえて効率が上がると考えたようです。
私たちは技術の粋を集めて、要望に応える端末を作りました。本体カバーは規定の重さを超過したら即はじいた(組み立てに使わなかった)ほどです。
―― そこまでやるのですか。細かい要望を寄せる法人顧客もいるのですね。
齋藤社長 いらっしゃいますね。
私たちのエンジニアはお客さまの所に出向く機会が多いです。きっかけはそんなにかっこいいものではなく「トラブルが起こった」とか「落として壊しちゃった」という理由で出向くことも少なくありません。
ただ、実際に行ってみると、お客さまが直接言わずとも「こういう所で落とすとこう壊れるのか」といった(想定していなかった)気付きを得られます。これを、次の製品設計に生かすことでさらなる品質向上につなげています
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