「パチモン」はこうして生まれる 誤ってゲットしないためには?牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2020年01月31日 07時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]
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 通販サイトを見ていると、外見が全く同じ製品を、複数のメーカーが販売していることがある。型番やメーカー名は異なっているが、写真を見る限りそっくりで、細かい仕様を見ても違いが見つからないケースだ。海外から製品の流入が多いPC関連やIT関連のアクセサリーでは、こうした傾向は特に強い。

 このように、通販サイトでうり二つの製品が並んでいると、ついつい両者が同じ製品だと決めつけて、安い方を選んでしまいがちだが、この考え方は実は非常に危険だ。なぜそうなのかを、製品が生まれる側からの視点で見ていこう。

「本物そっくり」の製品が本物と並んで売られるまで

 外観がそっくりの製品は、確かに出どころが同じ場合がある。例えば電源タップで、X社とY社の製品がうり二つだったとして、X社がY社に、もしくはY社がX社にOEM供給をしている場合だ。あるいは直販をしていないOEM専業のZ社が、X社とY社にそれぞれOEM供給をしている場合もある。これらは製品としては同一なので、サポート面を除けば、後は価格で選んでよい。

 もっともこれはかなり健全な部類で、例外も多い。一つは、メーカーが廃棄した金型を流用するなどして、本来は権利のない業者がそっくりの製品を生産しているパターンだ。

 一般的に樹脂製品の金型というのは、何万回といったショット数を生産すると摩耗し、交換が必要になる。これら金型の権利はメーカーが保有しているわけだが、生産を下請けに委託しているメーカーでは、イニシャルコストを下げるため、金型の制作費をメーカーと下請け業者で折半したり、あるいは下請け業者が権利を持っていたりする場合もある。

 こうしたケースで金型が摩耗して交換、廃棄となった場合、古い金型の処分方法は下請け業者に一任される。ここで処分するはずの金型を使って再生産を行えば、本来ならば梨地加工になっているはずの表面がツルツルだったりと粗はあるものの、見た目は元とそっくりの製品が、下請け業者で独自に作れてしまうわけだ。

 なにせ償却すべき金型代がゼロなので、価格も思い切り下げられるし、あるいは価格は少し安い程度にしておいて利益率を高くする方法もある。後は出どころを不明にして、元のメーカーとは販路がかぶらないディスカウントルートや、海外ルートなどに流してしまえば、文字通りのボロもうけというわけだ。

 もっとも近年は、インターネット通販の台頭で世界中の製品が容易に入手可能になったため、かぶらないように販路を変えていたはずが、いつしかオリジナルの製品と同じルートで並んで売られるケースも増えてきた。複数の業者を介するうちに、販売ルートがうやむやになってしまうわけだ。冒頭で述べた、そっくりの製品が並んで売られるケースの何割かがこれである。

 この事実が発覚すると、元メーカーと下請け業者の間でひともんちゃくあってよさそうなものだが、そもそもが金型の管理を下請け業者に任せていたメーカーの管理不行届でもある。また中には下請け業者が主犯ではなく、そこから処分を委託された別の業者が金型を横流ししたケースもあるので、証拠を押さえても、せいぜい以降の取引を切るくらいしかできないのが現状だ。

気付いていないだけで「パチモン」を踏んでいることも

 上記のようなケースは、ユーザーから見た場合、プラスチックの成型が粗いという程度でしかなく、製品としては実用上問題がない、いわゆる「B級品」のようなものであることも多い。しかし、中には製品の性能が明らかに低下しているケースもある。

 マウスを例にとると、ボディーは前述のような摩耗した金型を使用し、スイッチやセンサーなどの内部部品は自分たちで調達するケースだ。この場合、見た目はオリジナル製品とそっくりながら、性能が明らかに下回っていたり、機能が省かれたりした製品が仕上がってくる。先ほどの例とは違い、こちらは完全に「パチモン」である。

 ユーザーから見ると、外見はそっくりで価格が安いため、そちらの方に飛びついてしまうが、中身は全く別物というわけだ。マウスやキーボードといった入力機器の他、最近では完全ワイヤレスイヤフォンにも疑わしい製品が多数あるので、そうした視点で通販サイトを見てみると面白い。

 また、摩耗した金型を利用するといったまどろっこしいことをせずに、下請け業者が自ら金型をコピーして横流しし、利益を得ている場合もある。このケースでは、価格的なメリットはないものの、内部の部品調達がしっかりしていれば、オリジナルを上回る製品を作れてしまう可能性があるので始末が悪い。

 ところでこれら製品の多くはインターネットでのみ流通する(理由は後述)。ネット販売ということは、ユーザーは購入前に自らの目で真贋を見抜くことはできず、写真でのみ判断することになる。もしその写真がオリジナル以上の見栄えに加工されていれば、全くのお手上げになってしまう。

 こうした製品に目がくらむユーザーは価格重視の傾向があるため、わざわざ現物を買い比べるようなことはせず、よって発覚することもまずない。日用品や文具、食品などとは異なり、同じ製品をリピートで買うことがほとんどないPCアクセサリー業界ならではの特性も、大きく影響している。

 この話が怖いのは、自分自身が過去に購入してハズレとみなした製品の中にも、これらパチモンが含まれている可能性があることだ。当人は本物と思い込んでいるので、品質の低さにあきれ「二度と買いません」とレビュー欄に捨てぜりふだけ残して消えていく。パチモン故の品質の低さだったことには、最後まで気付かずに終わるわけである。

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