「macOS Big Sur」のパブリックβを試して確信したこと Apple Silicon搭載に向けてiPhone・iPadとの統合が加速本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2020年08月07日 15時30分 公開
[本田雅一ITmedia]

 Mac向け次期OS「macOS Big Sur(ビッグサー)」のパブリックβ版が公開された。開発者向けのβテストを経て、開発者以外のユーザー向けにもβ版が配信され、いよいよ今秋の正式版リリースに向けて機能がまとまってきている(余談だが、このバージョンからmacOSはバージョン11となり、「X(テン)」ではなくなる)。

Big Sur Appleは8月6日(米国時間)、Mac向け次期OS「macOS Big Sur」のパブリックβ版を公開した

 今後は品質を高めながら細かな調整が行われるが、例年の開発スケジュールからすると、主だった機能やその振る舞いなどが固まってきたとみていいだろう。ここではAppleへの取材をもとにBig Surの現状を検証しつつ、Macの製品戦略についても考えてみたい(パブリックβ版のスクリーンショットはAppleから特別な許可を得て掲載している)。

Big Sur 今回試したβ版のバージョン

Apple Silicon搭載Macに先立ち、iOS系との統合が進む

 Apple製OSはmacOSに限らず、年次開発者会議のWWDCで開発者向けに年末の目玉となる機能(およびその使いこなし)についてアナウンスし、年末商戦に投入するハードウェア新製品と組み合わせた場合の付加価値は、製品のリリース直前まで秘密裏に開発が進められる。

 とはいえ、ハードウェアとの綿密な統合が必要となるスマートフォンやタブレットのOSとは異なり、パソコンであるMacのOSはWWDCに注目していれば、おおむねトレンドを読むことができた。

 しかし今年は事情が異なる。Macが採用するシステムチップをIntelから自社製の「Apple Silicon」に変更すると発表したからだ。Apple Silicon上で動作するmacOS Big Surに関しては、その開発が順調に進んでいるが、残念ながらその詳細は公開されておらず、ここで詳しく触れることはできない。

Apple Silicon AppleはMacのプロセッサを今後2年かけてIntel製から自社開発の「Apple Silicon」に切り替える予定だ

 しかし、Intel Mac向けアプリケーションも含め、ユーザーがプロセッサの種類を意識せねばならない部分はほとんどなく、更新されていない32bitアプリなどを除けば極めてスムーズな移行が見込めそうだ。よほどシステムに深く興味を持つユーザーでなければ、プロセッサアーキテクチャの違いや対応アプリの混在について、全く気付くこともなく使い続けられる程度には洗練される。

 これらはユーザーから隠された部分だが、懸念されるのはアプリの統合だ。もちろん、マルチフィンガー対応のタッチパネルを前提としたiOS・iPadOSのアプリとタッチパネルを前提としないmacOSのアプリでは、ユーザーインタフェースに対して求められる要素が全く異なる。

 しかしBig Surを使い込んでいくと、相反する2つのOSがある面で統合され、ある面では統合されずになじみ合っている。Appleのもくろみがうまくいけば、iPhoneがもたらすモメンタムの大きさがiPadシリーズを後押ししているように、Macの進化も後押しすることになるだろう。

iPad的なレイアウトとなるBig Sur対応アプリ

 Appleは2年前のWWDCから、iOS・iPadOS向けアプリをMac上でも動作させるためMac Catalystのプロジェクトを進めてきた。これは簡単にいえば、iOSで提供されているUIkitというユーザーインタフェースAPIを、Macの画面とキーボード+マウス(トラックパッド)で再現しようというものだ。

 もちろん、ハードウェアが異なるため完璧ではない。しかし、iOS向けアプリの開発成果をMacに持ち込むことができれば、iPhoneに集まる開発パワーをMacにも再流入させられる。

 Appleは当初、ボイスメモ、株価、Podcast、Apple TV、写真などでこの機能を使ってきた。Big Surではメッセージと地図もMac Catalystを使っている。Big Surのメッセージや地図が機能的にiPad OS版と共通になった(これまではサブセット)のは、Mac Catalystに対応したからだ。

Big Sur Mac Catalystへの対応により、Big Surのメッセージや地図のアプリは機能的にiPad OS版と共通になった

 今後、iOS版の各種アプリが更新されると、macOS版も同じように洗練が進んでいくことになる。売り上げ規模の大きなiPhone向けの開発投資をMacにも向けられると考えるならば、AppleにとってもMacユーザーにとっても好ましい。

 「同様の効果は今後、サードパーティー製のアプリにも期待できるだろう」と、これまでは簡単に書けなかった。なぜならユーザーインタフェースの乖離(かいり)が大きく、iPhone向けはもちろん、iPad向けであっても、そのまま動いただけでは他のMac用アプリとはなじまないためだ。

 しかし、Big SurではmacOSアプリのウィンドウデザイン、ボタンのレイアウトやデザインなどを変更し、同時にiOSもiPadOSと分離した上でキーボードとの親和性が高い使い方やデザインに変更している。

 タイトルバー、ツールバー、サイドバーなどを融合した新しいウィンドウレイアウト、サイドバー内の行間や機能を表すシンボル(アイコン)デザインなどは、単に操作の一体感だけではなく、機能的で見通しのよいユーザーインタフェースをもたらしてくれる。

 これまではタイトルバー、ツールバーの下に各種アプリの表示部品が上下方向に階層化されていた。しかし、新しいデザインではウィンドウ制御ボタンとサイドバーが一体化し、ウィンドウタイトルは省略。ツールバーのシンボルはウィンドウの最も上の位置にスライドした。標準のメールアプリを見ると、メッセージのリストやメッセージ本文の表示などが、縦方向に余裕のある配置となり、情報が縦方向に増えている。

Big Sur Big Surのメールアプリ

 これらの変更は、恐らくiPad向けアプリをそのままmacOSの中で動かした際の違和感を大幅に緩和してくれるだろう。

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