コンピュテーショナルフォトグラフィーとは、近年よく聞くようになったキーワードだが、iPhone 12・12 Proにまつわる話としてAppleも頻繁に使うようになった。
AppleとしてはA14 Bionicの性能をサードパーティーにさまざまな形で応用してほしいのだろうが、発売したばかりのタイミングでiPhone 12に特化した事例では、やはりカメラ機能がその実力を最も端的に表している。
昨年好評だった「ナイトモード」、アップデートでの対応となった「Deep Fusion」が内蔵する全てのカメラで利用可能になった他、スマートHDRが「スマートHDR 3」に進化するなどトーンマッピングが大幅に改善。実際に撮影してみると、暗部階調とホワイトバランスが目に見えてよくなった。
被写体の判別や機械学習処理による適切なトーンマッピング、ホワイトバランスの調整などは、まさに演算能力の向上を生かしたものだ。
中でもひと目で分かるのがホワイトバランスの的確さだ。複雑に光が混ざるミックス光や日陰のシーンでも、場の雰囲気を崩さずに適切な温かみを微かたたえた色合いとなる。
例えば、夕方で陽が落ちかけている時間帯、ビルの谷間の日陰で撮影した写真をiPhone 11 Pro Maxで撮影したものと比べると、蔦の葉の色や壁、肌の質感などが全く異なる。
また心地よい健康的なスキントーンに加え、顔の輪郭部や首のシャドウに向けての階調が豊かで色乗りがよいことも好印象に感じるポイントだ。iPhone 11 Pro Maxの写真ではシャドウへの引き込みが強く、急速に色が抜けていくためコントラストを強調したような絵柄に見えてしまう。
次に超広角で空、人物、建物を写し込んだコントラスト差の激しいシーンを撮影してみた。普通に撮影すれば日陰の壁と明るい空の描写は両立しない。しかし、スマートHDR 3と適切なトーンマッピングで、iPhone 12・12 Proはこれを克服する。
機械学習処理で、被写体ごとに適した処理を行うのだが、今回は空の認識を行うことで、青々とした空が表現されている。以前ならば2枚の異なる露出のRAWを手動で現像し、被写体ごとに適切な階調表現で調整しながら絵作りをしていたところだが、A14 Bionicはそれを自動的に行っている。単純な絵作り、画像修正だけでは生成できない写真が得られるのだ。
こうした利点はハードウェアに手が入っていないと思われるFace ID用のフロントカメラ(TrueDepthカメラ)でも同じで、セルフィー撮影の写真の質もまた、上記と同様の画質傾向が得られていた。
スマートフォンで料理を撮影するという方も多いだろうが、そのような場合でもiPhone 12・12 Proのカメラは威力を発揮する。
ホワイトバランスや暗部階調の改善は、店舗での撮影などあまり撮影環境がよくない場所での撮影をサポートしてくれるが、さらに食材の雰囲気をうまく引き出してくれる。ありていな表現だが、素材の瑞々しさや出来たての風合いといったシズル感が伝わってくるような絵になるのだ。
全体に色乗りが良い一方、ハイライトが伸び切るように描かれ、輝き感を強く感じる絵柄となる。雑誌掲載用にレタッチしたような絵だと感じる人もいるかもしれない。
一方で、カフェ店内での写真では照明やグラスの輝きの部分など、細かな点光源の描写が高コントラストである一方、人物の階調表現は滑らか。被写体ごとにどうあるべきかを判別しながら、局所のコントラストを高く保つべき素材と、そうではない被写体を分けているように感じられる。
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