「強いIntel」復活なるか 新CEOの2兆円投資がPCユーザーにもたらすもの本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2021年03月29日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

製造技術で周回遅れだったIntel

 昨年末、Appleが「Apple M1」プロセッサを導入。消費電力あたりの性能がIntel製の最新プロセッサの2倍相当という驚きの高効率を示した。この高性能の背景には、長年に渡って開発してきたiPhone向けSoC(System on a Chip)でのノウハウが生かされているが、生産工場を持たないAppleがこうしたプロセッサを設計できたのは、TSMCの開発した最新の5nmプロセスを真っ先に利用できたからだ。

 Intelの7nmプロセスは構造が異なるため、TSMCの5nmプロセスに匹敵するともいわれているが、Intelは14nm、10nmの製造プロセスで足踏みしたこともあり、周回遅れになっていることは否めない。TSMCは既に4nmプロセスの試験生産を始めており、3nmへの移行計画も進んでいる。

 Intel互換プロセッサを開発するAMDが、Intelを超える高性能、高効率の製品を積極的に開発できるようになったのも、同社が製造技術や設備への投資が重いIDMを分社化し、また最先端の開発競争を諦め、その時点で最適なファウンドリーへと生産委託する方向へと舵を切ったからだ。

 しかし、Intelが外部生産への委託へと向かうことには大きなリスクがある。同社のプロセッサは自社開発の生産プロセスを前提にした設計が行われてきた。その逆も同じで、相互依存度が高いという問題があり、簡単に外部への生産委託は行いにくい。

 その上、微細化のレベルが異なるため、例えば他社のより微細化が進んだ製造プロセス向けに最適な開発を行うことも難しく、自社と他社の製造拠点を併用するミックス生産は行えないはずだ。

 加えて大規模の高性能プロセッサを製造できるレベルの技術を持った半導体メーカーは、TSMCとSamsungぐらいしかないという問題もある。

 このような状況を打破するためにゲルシンガー氏が選んだのが200億ドルの投資を短期間に行い、Intelの7nmプロセスを一般化させることだった。その背景には「最新の半導体製造技術がアジアに偏っている地政学的なリスクへの対応」という意図があるともゲルシンガー氏は話している。

industry capacity 最新の半導体ファウンドリーは生産能力の約80%がアジア地域に集中しており、欧米から懸念が出ているとゲルシンガー氏は語る

 これまで手掛けてこなかったファウンドリー事業を始めるとしたのは、米企業主導の米国工場による最新の半導体生産が、Intelという企業だけではなく国単位の戦略性にも大きく関わると考えたからだろう。

industry capacity Intelの半導体工場は欧米とイスラエルにあり、欧米にとっての「地政学的なリスク」に対応できるとする

Intelの本当の強さ

 今回の新工場は2024年の稼働であり、Intelにとって次世代となる7nmプロセスはその頃には、十分に熟成したものになっているだろう。予定通りの歩留まりで成熟したプロセスで安定した生産が行えれば、ファウンドリーとしても、特に米国拠点の企業にとっては心強い生産拠点になるはずだ。

 ゲルシンガー氏は政府調達品などを中心に、信頼性優先の半導体を製造することを念頭にファウンドリー事業を立ち上げる。その一方で、一般的なクライアント・サーバ向け製品の一部を2023年からはTSMCに生産委託。自社工場のキャパシティーが十分になるまでのつなぎにするものと考えられる。

 Intelの強みはIDMにあると述べたが、さらに言及するならば、世界の大半のパソコンに加え、データセンターなどサーバ向けプロセッサをはじめ、極めて多くのマイクロプロセッサ需要を自社でまかなえる生産キャパシティーの高さにあった。

 これほど多くの需要に応えられる半導体メーカーは他になく、技術を磨くだけではIntelに追い付くことはできない。

 しかし昨年、コロナ需要時のプロセッサ不足にあるように(他社に対して半導体製造技術で遅れているだけではなく)生産キャパシティーの面でも、IDMを続けられるかどうか怪しくなっていた。

 思ったように微細化を進められず、計画通りにチップの収量(シリコンウエハから取れるチップの数)を増やせなかったこともあるだろうが、それらに伴う粗利の低下が投資計画にも影響を与えたと考えられる。

 無理筋と思われる自社+他社のミックス生産へと踏み出す可能性を検討したのも、そうしたネガティブスパイラルの中での、致し方ない選択肢だったのかもしれないが、2つの新工場が稼働し始めれば、自社が必要とするチップに加え、他社の委託も受けられるという算段だ。

 このところのIntelの半導体製造技術の遅れを考えるならば、ゲルシンガー氏の計画は一種の賭けといえるかもしれない。しかしIntelが「Intelらしい強さ」を取り戻す唯一の方法でもある。

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