一方で面白いのは、こうした覚悟を決めた異業種参入よりも、現状の営業体制と製品ラインアップのまま、同じ製品を同じ量販店の別の売場で取り扱ってもらうことの方が、簡単にみえて、かえって難易度が高い場合があることだ。
例えばPC売場から文具売場やAV機器売場に話を持っていった場合、その売場での競合他社に合わせて価格を下げることを求められ、PC売場での売価とつじつまが合わなくなったり、またPC売場のバイヤーが浮気をしたとヘソを曲げて扱いが悪くなったりと、さまざまな問題が発生して、もとの売り上げにマイナスの影響を与えることがある。
もちろん新規に製品を用意しなくてよい分、経営上のリスクは低いのは事実だ。しかし異業種参入のようにまとまった予算が投下されるわけではなく、社内の開発体制もそのまま、増員なしのまま別の売場に売り込みに行き、成功すればその後もフォローしろというのだから、現場にとってはたまらない。
むしろこうした戦略で効果が上がらなかったことで既存業界に見切りをつけ、異業種への参入へと戦略を切り替えるケースは、一定の割合で存在する。もっともこうした経緯を間近でみてきている社員が、思い付きレベルの異業種参入について来るかは未知数だ。
なにせメーカーの場合、参入に失敗して撤退されてしまうと、サポートのない製品が手元に残されるリスクがあり、消費者としてはたまらない。異業種から参入してきたメーカーの製品に手を出す場合、その参入が積極的な姿勢のたまものなのか、追い詰められてのやむを得ない判断によるものなのか、シビアに見抜く目が求められるといえそうだ。
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