第9世代iPadに感じた妥協しない価値 iPad miniとクイックメモに感じた新しい展望(1/4 ページ)

» 2021年09月22日 22時00分 公開
[林信行ITmedia]

 Apple秋のイベントで発表されたのは、iPhoneとApple Watchだけではない。約80分間の講演のうち、2割にあたる16分はiPadの最新ラインアップについて割かれた。前製品とほとんど変わらないサイズの「10.2インチiPad(第9世代)」と、大きく変更がなされた「iPad mini(第6世代)」だが、魅力の方向性が全く異なる両製品に触れると、改めてAppleの製品開発の基本姿勢がよく見えてきた。

第9世代iPad この秋のスペシャルイベントでは、一見マイナーチェンジに見える第9世代iPad(左)と、大きく様変わりしたiPad mini(右)が発表された

ただ安いのではない! 長く使えるのに手頃な価格の第9世代iPad

第9世代iPad 見た目はこれまで通りだが、第1世代Apple Pencilに対応するなど中身も機能もしっかりと進化し、製品の価値と寿命を伸ばしているのが第9世代iPadの良さだ
新たに装備した広角フロントカメラで撮影した新幹線の座席。超広角だとここまで広い範囲を撮影できる

 新型iPadは、あえて2年前から変わらない形を継承する。そのため、豊富なアプリはもちろん、充実のアクセサリーもそのまま使える。完成された形を維持しながら、実はフロントカメラは122度の視野角を持つ超広角の1200万画素カメラに進化した。

 好評のセンターフレーム機能に加え、液晶画面は周囲の光に合わせてナチュラルな色再現を行うTrueToneに対応している。さらに、ストレージ容量も前モデルから2倍となる64GB/256GBとなって実用性を向上させている。プロセッサも2020年モデルから1世代進化したA13 Bionicになった。

 この視点は軽視されがちだが、iPhoneとiPadは新機種に乗り換えなくても長く使い続けられることも大きな魅力の1つだ。なんと最新のiPadOS 15も、7年も前のiPad Air 2にまで対応している。

 これまでの実績を考えると、第9世代のiPadも確実に5年先の2026年くらいまでは現役製品として妥協せず、広い用途で活用できるはずだ。プロセッサやストレージのアップデートは、それを見越したものだろう。今から2020年の第8世代iPadを入手するよりも、第9世代の方が確実に1年は長く使える、先の長い投資という視点も忘れてはならない。

 それでいて価格はWi-Fiモデルで3万9800円(税込み、以下同様)からと、手頃なのは大きな魅力だ。次の項で詳しく述べるが、やはりiPadの最大の魅力はスマホと兼用のOSではなく、タブレットならではの使い勝手を考えて設計された定評のiPadOSを使えることにある。このOSが4万円を切る価格で使えるというだけで、第9世代iPadの価値は高い。

第9世代iPad 新型iPad(第9世代)の主な特徴

 この価格設定は、これまでiPadになかなか手を出せずにいた個人の懐にも優しいが、教育市場ではさらに大きな意味を持つ。

 中には、もっと安価なノートPCやタブレットが世の中には存在するという人もいるだろう。iPadの3万9800円の価格は本体だけであり、Apple Pencil(1万1800円)やSmart Keyboard(1万8800円)は別売りだ(他社製のキーボードならもっと安く買える)。

 だが、価格が大事なのは購入する瞬間だけであり、それに対して購入した後、例えば在学中の間は、ずっとタブレットの品質が日々の授業に大きな差を生み出すことになる。

 標準サイズのiPadは、既に世界中の教育機関に導入された実績があり、利用方法の制限やOSのアップデートなど、教室での活用の上で重要な一括管理の仕組み用意されている。

 ハード的にはフロントカメラが超広角撮影に対応したのは大きな変更で、学校などでよく作成する説明動画や、ダンスなどのスポーツの練習動画を画面で確認しながら撮影できるのは大きな長所だろう。一方、ソフト的には新しいiPadで追加されたクイックメモ機能(後述)が非常に有益に思えた。

 学校へのパソコンやタブレットの導入が必須となったが、導入までは入り口に過ぎず、ちゃんと学びに役立てることができて初めて価値がある。iPadでは大量の導入実績があるからこそ、豊富な活用事例やトラブル対策の情報が共有されており、例えばiOSコンソーシアムが運営する「iPadと学び――実践に向けての知恵の共有サイト」などのサイトにまとめられているのも大きな強みだ。

第9世代iPad 授業での活用のヒント、デバイスの管理運用、ヒントをくれそうなパートナー探しなどができるiOSコンソーシアム運営の「iPadと学び」

 1980年代からコンピューター時代の教育を模索し続けてきたApple。自らも「Everyone Can Create」と「Everyone can Code」というデジタルを道具として活用し、自らの能力を伸ばすことに重点を置いた非常に優れた教材を、Apple Booksの電子書籍として出している。

 特定のデジタルツール機器や特定のOSバージョン、特定のアプリに依存した形ではなく、生活や学びを良くするためのヒントを提示し、それをデジタルツールで補うといったスタンスでの作りが、非常に本質的で好感が持てる素晴らしい教材で、この本を読んで実践する専用ツールとしても十分4万円の価値があると思う。

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