筆者は今年の初めにAppleがM1後継チップをどのようなものにするかと考えたとき、拡張に際して、より効率的にチップを生産しつつ、パフォーマンスにスケーラビリティを持たせる計画だろうと予想していた。
つまり、10月に発表されたM1 ProとM1 Maxが、もともと超大規模だったM1をディスクリートGPU並の演算パフォーマンスに引き上げてくるとは考えなかったのだ。ましてやApple ProResコーデックを扱うための動画専用プロセッサ(メディアエンジン)を統合したり、ディスクリートGPU並みにコアを並列化(最大32コア)するため、2つの新しいSoCを設計したりするなんてことは、思い付いたとしてもなかなか実行できない。
iPhoneとMacでは出荷台数が桁違いな上、Macの主流はあくまでもM1を搭載する製品だ。M1 ProやM1 Maxをカスタムで設計しても、商売としてはペイしない。半導体メーカーなら当然そう考える。しかしAppleは半導体メーカーではなく、コンピュータハードウェアのメーカーだ。
チップで利益を出しているのではなく、それを搭載したMacなどの商品を販売して利益を上げている。M1 ProやM1 Maxを他のメーカーに販売しているわけではないのだから、何個生産してどのぐらい利益を上げるといったことは考えないと気付くべきだった。
というわけで「ディスクリートGPUを組み合わせたとき、M1の共有メモリアーキテクチャによる優位性がどうなるか」という当初の疑問の答えは「共有メモリアーキテクチャを維持したままSoCの規模を信じられないぐらい大きくした」というのが正解だった。
このやり方は半導体を外販して利益を上げている企業ではないからこそできるもので、その半導体技術の背景にあるiPhone・iPad向けにSoCを開発してきたからこそ、という側面はある。
しかし、Appleが今回の事例を作ったことは、今後Intelがファウンドリーサービスを行う際のリトマス試験紙になるとは思う。Intelが提供するファウンドリーやコアライセンスのメニューが分からない現状では、あくまでも可能性でしかない。しかし、こんなことができるぞ、という方向性は示した。
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