2021年、テック製品の業界で予想外だったのはAppleだった。自社設計チップの「M1」をどのように拡張するかについて、まさかあれほど大規模なSoC(System on a Chip)に仕立て上げるとは思わなかったのだ。「やればできる」と「実際にやる」は全く別のこと。「M1 Pro」「M1 Max」を作ることにしたAppleの判断には驚かされた。
しかし、個人的にこの業界から今年一番の注目ニュースをピックアップするならば、半導体の巨人であるIntelが意欲的なロードマップを発表したことだ。
2月にIntelに復帰してCEOに就任したパット・ゲルシンガー氏の戦略、10月に発表した第12世代Coreプロセッサとそのコンセプトなどからは、数年にわたってPCプラットフォームが新たな進化を遂げる道筋が垣間見える。
ゲルシンガー氏がCEOになって間もなく、Intelは米国内に巨大な最新半導体製造工場を2つも立ち上げる計画を発表。2024年となる操業開始時には、他社製品の製造を請け負うファウンドリー事業も本格的に立ち上げる。同時にIntel Coreのライセンスも行うと発表した。
関係者に取材してみると、さすがに就任間もなくの発表だったこともあり、実際にどのような事業メニューになるのか、コアのライセンス形態なども含め、何も決まっていない状況だったようだ。
Intelから奨学金を得ながら苦学しつつ最上級幹部にまで上り詰めたゲルシンガー氏だけに、自社の強みや半導体業界トレンドをしっかり押さえた上で、これならイケると判断しての戦略発表だったのだろう。
半導体の集積度が上がってきたことにより、汎用(はんよう)のCPUコアやGPUコアを並列化するだけではなく、用途・目的に合わせた回路を盛り込むことで、最終製品の体験を向上させるというアプローチは、主にスマートフォン向けSoCで採られていた。
その典型的な例がiPhone向けの「Apple A」シリーズで、カメラ向けに欲しい機能や性能などの要求仕様は製品化される3年前に決まるという。
パソコンよりもエネルギー効率に対してシビアなスマートフォンだからこそのアプローチともいえるが、AppleがMac向けにM1を開発したことで状況は変わりつつある。iPhoneと同様のアプローチでMacの商品性を大幅に高め、多様な処理回路を製品の企画・設計とともに最適な形で統合することが、今後のPC向けSoCでも必要であることが顕在化した。
顕在化したと書いたのは、いずれそうなるという暗黙の共通認識がIntelにもあったと考えるからだ。それは冒頭で触れた第12世代Coreに現れており、微細化が進んだ先には、さらなる処理回路の多様化、あるいはファウンドリーとIntel Coreライセンスを活用し、独自回路を組み込んだカスタムSoCをPCメーカーがオーダーできるようになる、そんな世界が見えてくる。
そもそもApple MシリーズはMacとiPad Proでしか使われないのだから、Intelの競合ではないという見方もあるだろう。しかし、全く同じではないにしろ、Intelアーキテクチャが採りうる方向性を示している。
Intelの競合といえば、好調なAMDの存在もある。ただし、チップの製造能力という面でみると、台湾TSMCで主力製品を生産するAMDがPC業界の需要を全て満たすことはできない。IntelもTSMCのメジャーカスタマーではあるが、自社でも最先端の製造能力を持つわけで、業界へのインパクトの大きさという意味で今年のIntelは興味深かった。2022年はさらに面白い年になるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.