―― 本機の特徴として挙げられている「トリプルバンドダイポールアンテナ」とは何ですか。
二井氏 無線回りに詳しくない人にも分かりやすく説明すると、2本の直線状の導線を左右対称に並べて作ったアンテナのことを「ダイポールアンテナ」と言います。指向性(電波の向き)をキレイに出したい場合に有利とされています。
今回WXR-11000XE12が搭載するトリプルバンドダイポールアンテナは、その名の通り3つの周波数帯に対応するダイポールアンテナです。具体的にいうと、先端側に2.4GHz帯用と5GHz帯用、根元側に6GHz帯用のアンテナを配置しています。「なぜ6GHz帯用を根本側に?」と思うかもしれませんが、これはハードウェアに起因する信号の減衰を少しでも減らすためです。
ダイポールアンテナを備えるWi-Fiルーターでは「アンテナの向きをどうすればいいか分からない」との声を頂戴することもあるのですが、取扱説明書にお勧めの調整方法が記載されています。それを見ながら調整していただければ、簡単に最適化可能です。
―― ハードウェア面でほかに工夫されているポイントはありますか。
二井氏 実は放熱設計でとても苦労しました。
先に栗本が触れた通り、内部のネットワークチップはPCI Express接続で、ルーターとしての機能の陣頭指揮を取るCPUはも最大2.6GHz駆動の4コア構成となっています。端的にいうと基板のあちこちが熱くなりやすい状況で、何も対策をしないとピーク時の発熱は100度近くに達してしまいます。ゆえに、放熱機構の設計をしっかり行う必要があったのです。
ヒートシンクは、形状、フィンの高さやピッチを(コンピュータを使って)シミュレーションを繰り返し、試作を4〜5回行いました。通常の製品なら、(ヒートシンクの)試作は1〜2回で済むのですが、品質基準を高い水準でクリアするために試行錯誤を繰り返しました。
「なんでそんなにやるの?」と思う人もいるかもしれませんが、試作時にスループットが思ったほど出ないので調べてみると、ヒートシンクの形状が無線通信の品質を低下させていたということも結構あります。試作しつつ、パフォーマンスのチェックを繰り返す必要があったのです。
「そこまでやるなら冷却ファンを付ければ?」という声もあるかと思います。確かに冷却ファンを使えば、熱対策の難易度は下がります。しかし、動作音がうるさくなったり、可動部が増えたりとユーザー目線でメリットがありません。ゆえに、ファンレスにこだわったのです。
―― 基板をよく見ると、USB端子の上にもヒートスプレッダーみたいなものがありますね。
二井氏 その通りです。使い方によってはUSB端子の周辺も大きく発熱するので、放熱対策を行っています。
熱はUSB端子の上にあるサーマルパッドを介して、ボディーに取り付けたアルミニウムブロックに伝わり、放熱されます。
―― WXR-11000XE12は、どんな人に向いているWi-Fi 6Eルーターなのでしょうか。
栗本氏 まず、とにかくつなぐWi-Fiデバイスが多い人にお勧めです。スマートホーム機器やIoTデバイスなどが増えてくると、それが原因でスループットが低下することがあります。
その点、本機の推奨同時接続台数は最大60台と、一般的なWi-Fiルーターより多めです。4コアCPUを搭載した効果もあって、ルーティング(データ通信の割り振り)も余裕で行えます。
加えて、ノートPCを始めとするWi-Fi 6E対応デバイスを1台でも持っている人や、1Gbps超のインターネット回線サービスを契約している人にもお勧めできます。具体的なユースケースに立つと、オンラインゲームをなるべく遅延なく遊びたい人や、5GHz帯の通信が遅いと感じている人なども検討していただくといいかと思います。
WXR-11000XE12は、決してプロのeスポーツプレイヤーのようなヘビーユーザーだけに向けた製品として開発しているわけではありません。むしろ、一般のご家庭向けです。実際、5万円弱の価格でWi-Fi 6/6Eのスループットが4Gbps超となると、分かる人なら「スペックの割に手頃だな」と気付いていただけると思います。
普通のご家庭でもオーバースペックな製品かも、と身構えることなく、カジュアルにご検討いただければ幸いです。
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