実は最古のPCブランド「Mac」進化の旅路と、1980年代を象徴する“ニューメディア”を振り返る(前編)Mac40周年(2/3 ページ)

» 2024年01月30日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]

見え始めていた、新メディアの兆し

 家で調べ物をするには、人々は辞書に頼っていた。家庭によっては十数巻からなる“百科事典”という、ありとあらゆる分野の情報を詳しく網羅した本を本棚にそろえており、Web検索をする代わりに、これらの本をあさって情報などを探していた。

 こうした本を持たない人々たちにとって、図書館は重要な場所だった。本や雑誌だけでなく、レコードも借りられた。ちなみに2年前の1982年には既にCDが製品化されていたが、まだ一般的ではなかった。

 そして、1984年は来るべき情報化時代への兆しが一気に芽吹き始めていた年でもあった。

 米国では1980年代に入ると同時に、多チャンネル化が可能なケーブルTVが普及し始めた。ニュース専門チャンネルのCNNや音楽専門チャンネルのMTVといった面白いTV局が誕生していることも話題となり、1984年に開催を控えたロサンゼルス・オリンピックの情報も注目を集めていた。

 また、NHKも4K/8Kに取って代わられる前の高画質TV放送技術「ハイビジョン」の研究開発を進めており、当時のアナログ放送波で伝送するためのMUSE方式(Multiple Sub-Nyquist-Sampling Encoding system)という技術を1984年に完成させている。

 NTTの前身である日本電信電話公社も、キャプテンシステム(CAPTAIN System/Character And Pattern Telephone Access Information Network System)と呼ばれるサービスを1984年11月から始めている。

 TVに接続して使うPCのような形をした専用端末で、電話線を通じて中央のシステムにつなげることで、天気予報を見たり航空券を予約したり、ギフトを購入できたりするというものだった。

 パックマンといったゲームのドット絵よりもさらに表示は荒く、テキストと同じぐらいのサイズのドットで構成されたグラフィックス表現しかできないこともあり、使っている人はほとんどいなかった。それは技術が未熟だったからで、今日にWebで行われているクラウド型情報サービスやECサイトに近い発想は当時からあった。

 いずれにしても1984年は、それまでの新聞/雑誌/ラジオ/TVに代わる新しいメディアがこれから登場しそうだという予兆にあふれていた年で、これらをひとくくりにして“ニューメディア”と呼ばれていた。

 ちなみに当時のPC市場はどんな感じだったかというと、日本では1982年に登場した、標準で漢字が表示できるNECの16bit PC「PC-9801シリーズ」の天下取りが始まっていた。3月にはNEC製PCの出荷が累計100万台を突破している。

2008年に情報処理技術遺産認定を受けたNECの「PC-9801」

 同じく16bit CPU搭載の富士通「FM-11」なども人気を博していたが、これらはいずれも企業向けの製品という位置付けだ。個人ユーザーは、巨大サイズであればなんとか漢字の表示もできた8bitのホビー向けPCで、ゲームや音楽作りを楽しんでいた。

 NECと並ぶ国産メーカーのシャープも「MZシリーズ」を展開していたが、1982年に社内のテレビ事業部がTVと融合をした「X1」と呼ばれるPCシリーズを出すと、こちらの方が大きな人気を博し、社内競合になったという。

 富士通の「FM-7」シリーズはタモリ、ソニー製のSMC-777は松田聖子などTVタレントを起用してPCの販促を行っていたのもニューメディア時代を象徴する出来事だった。

 ちなみに米国では、IBM(開発はMicrosoft)の「PC-DOS」(MicrosoftによるOEM版がMS-DOS)を搭載したIBMの「IBM-PC」(1981年登場)が圧倒的な天下を築いていたが、1983年にはIBM-PCと100%の互換性をうたいつつ、(巨大で非常に重いが)持ち運びもできたCompaq Computer(現:HP)製のPC「Compaq Portable」が発売されるなど、高価でバリエーションが少ないIBM-PCの代替品としての互換PCが注目を集めていた時期だ。

 また、IBM-PCの対抗軸として米Sun Microsystemなどのワークステーションや、マウスを使った操作を始めて商用化したApple「Lisa」といったビジネス向けコンピュータ(1983年)も登場し始めていた。

AppleのLisa(出典:Computer History Museum

 数カ月前の情報を載せていた雑誌や百科事典、図書館による情報の時代からの脱却の足音が聞こえ始めていた1984年──その1月に、米国ではあの衝撃のCMで鮮烈なデビューを果たし、時代の空気を一気に変えたのがMacの登場だった。

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