実は最古のPCブランド「Mac」進化の旅路と、1980年代を象徴する“ニューメディア”を振り返る(前編)Mac40周年(3/3 ページ)

» 2024年01月30日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]
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初代Macの何が革新的だった?

 それでは、Macは何が革新的だったのか。まず1つは、マウスによるPC操作を広く一般に広めたことだ。だが、これは実際には一言で片付けられるものではない。

 マウスの操作は1968年のダグラス・エンゲルバート博士のデモが元祖だし、スティーブ・ジョブズ氏が見て、直接大きな影響を受けた米Xerox、パロアルト研究所のコンピュータ「Alto」(細かくいえば、その上で動くプログラミング言語「Smalltalk」)もあった。Apple自身もMacの1年前にLisaでマウス操作を採用している。

 だが、Macが他と異なっていたのはOS内に「Toolbox」と呼ばれるものを用意していたり、アプリケーションをどのように設計したらいいかというガイドラインを整備していたりすることだろう。

MacのToolboxを解説した「Inside Macintosh」(左)。1000ページ以上からなる開発者必須の書類は、最初はバインダー形式だったが後に幾つかの関連する章ごとにまとめて書籍化された。「Interface Guidelines」(右)もそうして単体の書籍となった。
その中身は、Mac用アプリである機能を呼び出す場合、どうすればいいかを細かく解説するだけでなく、画面上のどの要素がどんな意味を持つかも詳しく定義されていた

 Toolboxというのは、例えばウィンドウの表示や、文字の表示、図形を描くといった、どのアプリ開発者もプログラム中で行うであろう基本の動作を簡単に利用できるようにしたものだ。現在はコンピュータ以外の世界でもよく使われる言葉となった「API」(Application Programming Interface)の元祖のような存在だ(PC以外の世界では、もっと古いAPIの事例もある)。

 これらを整備したことで、Macでは他社製のアプリであっても、操作方法が(比較的)一貫していて、初めて触れるソフトであっても使いやすかった。こうしたこともあって、Macはマウス操作時代(GUI/グラフィカルユーザーインタフェース)の新世代アプリケーションを創出する基盤として圧倒的に優れていた。

 実際、Macでは極めて多くの新しいアプリが登場した。その代表格は別記事で触れるDTP分野だが、それ以外でもいまだに続いているものがある。

 それは、米Forethoughtという会社が開発したプレゼンテーションソフト「PowerPoint」が挙げられる(1987年にMicrosoftが買収して現在に至る)。

 今でこそ当たり前のコンピュータを使ったプレゼンテーションは、Macによって世界に広まった。実際、1980年代に日本では多くの医療系研究者が海外でMacを使って学会発表する姿を見て、それをまねすべくかなりの人がMacを購入していた。

 今ではWindowsユーザー定番のビジネスアプリ「Microsoft Office」も1989年にMac用製品として誕生している。ワープロアプリのWordこそXENIXやMS-DOSといったMicrosoft製OSでの提供が先だったが、マウス操作が前提の表計算ソフトのExcelも、Mac向けアプリとしてデビューを果たしている(それ以前に、キーボード操作前提のMultiplanという表計算ソフトは出していた)。

Microsoft ExcelとMicrosoft OfficeはMac用製品として誕生した。1984年のスーパーボウルと言えば、Apple Computer(当時)によるMacのCMが話題になったが、Microsoftは翌1985年のスーパーボウルでMac用OfficeのCMを打った

 今日のマインドマップツール製作アプリの原型ともいえる、画面上にアイデアを書き出して、それらを線などでつなぐアイデアプロセッサや、マウスでアイコンをつなげるだけでシンプルな機能を果たすアプリが作れるノーコードツールの元祖と呼べるようなソフトもいくつか既に出ていた。

 だが、やはり、Macを飛躍的に成功させたのはDTP革命の成功だろう。

後編に続く】

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