あの時、Appleは何をしていたのか 数々のデジタル革命をApple視点で振り返る(後編)Mac40周年(1/4 ページ)

» 2024年01月31日 12時00分 公開
[林信行ITmedia]

 現存する最古のPCブランドとして、「Mac」は1月24日に40周年を迎えた。

Macの代名詞となったDTPとジョブズ氏のこだわり

 今では当たり前のことだが、1984年のデビュー時、製品に付属していたワープロのMacWriteから、画面上で文章をレイアウトして印刷すると画面で見た通り、そのままの状態で印刷が行えた(Mac登場とほぼ同時に発売されたプリンタの「ImageWriter」は1インチあたりに72ドットという解像度で、Macの画面のちょうど2倍となる解像度、144dpiだったので再現性が高かった)。

 別途機械を使ったり、コマンドなどで字体指定などを行ったりしないと凝った印刷ができなかった当時としては画期的なことだった。これができること、それ自体に“ウィジウィグ”(WYSIWYG=What You See Is What You Get)という名前が付いていたほどだ。

 WYSIWYG自体は米Xerox パロアルト研究所のコンピュータ「Alto」などで既に示されていたビジョンだが、Appleはこれをもっと高度なレベルでできるようにすべく、創業して間もない米Adobeが開発していた「PostScript」という紙の上に狙った通りのイメージや文字を再現する技術に目をつけて、ジョブズが個人投資をした。

 これにより、ジョブズが他の役員に反対されながらも開発を進めていた、Mac本体よりも高価なレーザープリンタ「LaserWriter」(Mac本体の2495ドルに対して6995ドルだった)と、米Aldus(現在はAdobe)が作っていた「PageMaker」というソフトを組み合わせることで、雑誌の誌面などの凝ったレイアウトをMacの画面上で再現し、それをレーザープリンタで版下(印刷に使う製版の元となるもの)として出力することを可能とした。

Macとレーザープリンタの「LaserWriter」(左)を生み出したApple、ページレイアウトソフトの「PageMaker」(右)を開発したAldus、そしてApple製レーザープリンタで美しいグラフィクスや文字の印刷を可能にした技術であるPostscriptを開発したAdobeの「A」で始まる3社がDTPの生みの親とされている

 これによって、前編で紹介した原稿と素材を渡してレイアウトを組んでもらうプロセスが、一気通貫で行えるようになった。

 例えば、編集部内にデザイナーを置いて、編集部内のPC上で編集者がレイアウトを確認して微調整を行ったり、文章を直したりといったことが可能になった。

 これは本や雑誌の作り方を根本から変えてしまう革命的ともいえる出来事だった。もっとも、それから30年以上経過した今では、どこの出版社でも当たり前になり過ぎていて、そろそろDTP以前を知らない人々が中心世代になってはいる。

 このDTPのコンテクストで、忘れられがちなのがコンピュータのネットワーク接続だ。レーザープリンタは高価だったため、オフィスにある1台のプリンタを複数のMacで共有して使うのが当たり前だった。

 このように、会社内などでPC同士を接続して連携を取れるようにしたネットワークをLAN(Local Area Network)と呼ぶが、MacではこのLAN上での連携も驚くほど簡単だった。ネットワークに自分のMacを接続して「セレクター」という設定パネルでプリンタアイコンを選択すると、同じネットワーク上のプリンタの名前の一覧が出てきて、どのプリンタで印刷するか選択ができたのだ。

 今では当たり前のことだが、これがMac以外のPCでは驚くほど大変だった。Mac同士をLANで接続すると、当然、機器同士でファイル共有もしたくなるが、これも同様に簡単だった。

スティーブ・ジョブズ氏が当時の取締役会の反対を押し切って、Mac本体よりも高価なレーザープリンタを商品化したが、その際、AppleはMacをネットワーク化して1台のレーザープリンタを共有するMac Office構想を発表し、ファイル共有も行えるようにした。今ではオフィスで当たり前に使われいることだが、当時、他社製品でこれを実現するにはネットワークカードを追加して、ネットワーク接続のためのソフトも買い足す必要があった

 このように強力なDTPプラットフォームの座を築いたおかげで、MacではAdobeのイラストを作成する「Illustrator」や、フォトレタッチの「Photoshop」といった画期的なソフトウェアも登場した。

 出版物の作られ方だけでなく、絵図や写真の取り扱い方にまで大きな変革をもたらした。

 しかし、Macの商業メディアへの貢献はこれだけにとどまらない。DTP革命の旗手となったMacは、1987年に「Macintosh II」を発表してディスプレイのカラー化を果たした際にも、ただならぬこだわりを見せた(この時にはスティーブ・ジョブズ氏は既にAppleを追い出されていたが)。

 それは、画面上の色と印刷したときの色の再現性(カラーマッチング)にこだわり抜いた結果、ディスプレイとしてソニーのトリニトロンディスプレイを採用することを決め、他のPCとは比較にならないカラーマッチングを実現したことだ。

 このカラーマッチングは、iPhoneの時代になってもApple製品の大きなアドバンテージになっており、著名ファッションブランドなどが「iPhone用アプリは出すが、他のスマートフォンアプリは出さない」といった状況の大きな要因の1つになっている。

 こうして紙の印刷物の作られ方にも大きな革命をもたらしたMacだったが、やがてデジタルならではの情報表現でも中心的な役割を果たす。

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