Appleの中心的な役割──1990年代中頃の「マルチメディア革命」と呼ばれた動きだ。この分野でのAppleの貢献で特に大きいのが、1991年に登場した「QuickTime」という技術と、1992年に当時のジョン・スカリーCEOが呼びかけて開催された“箱根フォーラム”だろう。
QuickTimeは、時間軸で変化をする情報を扱うためのフレームワーク技術だ。動画フォーマットとして認識している人が多いが、実は楽器の演奏情報(MIDI情報)、テキスト情報(字幕など)なども扱えた。
また、当時の処理能力が低いPCで動画を遅延なく再生するためにコーデック(圧縮技術)なども採用したり、米TV/映画業界の標準規格に対応したりするなど、最初からかなりプロ品質での動画の実現も視野に入れた画期的な技術だった。
このQuickTimeの登場を受けて、Adobeの動画編集ソフト「Premiere Pro」などもMacでリリースされた(最初は「Premiere」という名前だった)。
紙の出版物の作り方を変えたように、映像制作の世界にも変化をもたらした。ただし、映像制作に関しては、Appleが会社として傾いていた時期に弱体化してしまい、日本も含め世界中の映像制作会社が、用途に合わせてシステムを組みやすいWindowsに移行した。
最近、高性能なApple Silicon搭載Macや高精細な映像が撮影できるiPhoneの人気などで取り戻しつつもある。
箱根フォーラムとは何かというと、AppleのCEOの呼びかけで日本のPCメーカーらの代表が箱根に集結したものだ。PC本体にCD-ROMドライブを内蔵しようという呼びかけが行われ、CD-ROMの業界標準などについても話し合いをしたという。
既に富士通の「FM TOWNS」は1989年からCD-ROMドライブを内蔵していたが、Appleも1992年には「Macintosh IIvx」でCD-ROMドライブ内蔵を果たしている。
CD-ROMは、それまでとは比較にならないほどの記憶容量を背景に、高精細なグラフィックや高音質な音を盛り込んだコンテンツの作成を実現した。インタラクティブな百科事典から写真集、映像集、さらにはゲームコンテンツなども次々と登場して大きな盛り上がりを作った。
ここでQuickTimeと並んで重要な役割を果たしたのが、高度なインタラクティブコンテンツを簡単に作れるオーサリングソフト「Director」を開発した米Macromedia(現在はAdobe)だ。
一方で、Apple自らが開発した「HyperCard」というオーサリングソフトも、Directorのような高画質コンテンツの制作にこそ向かなかったものの、極めて簡単にコンテンツを作れるのが魅力だった。ちょうど今日のWebと非常によく似ているが、HyperCardと呼ばれるだけあってページではなく、カードという概念を基本としていた。
カード上に文字や絵、動画、ボタンなどが配置されており、クリックすると動画を再生したり、リンク先のカードにジャンプしたりできた。
ただし、Webと違うのはメニューから「編集」を選択することで、新たにカードを加えて、そこに文字やボタンを配置したり、他のカードにリンクしたりといったことがマウスとキーボードの操作で簡単に行えたことだ。
このため、世界中で大勢のプログラミングすらできない教育者らがこのHyperCardを使って自前の教材を作ったり、グラフィックデザイナーがインタラクティブ絵本を作ったりするなど、新たな文化を生み出していた。
しばらくするとインターネット時代が訪れ、HyperCardは役割を失い、Directorも同じくMacromediaの「Flash」に取って代わられた。Flashは、Webブラウザ上でのインタラクティブコンテンツにより特化した仕様になっていた。その後、一時は膨大な数があったCD-ROMのコンテンツも、どんどんWebに移行していった。
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