一方、AppleはiPhoneの売上など製品を開発し販売する製造業としてのビジネスモデル、つまり個人情報に依存しないビジネスを営んでいる(それ以外もIBMやMicrosoftなど、インターネット登場前に誕生しているIT企業は、コンサルティング業やクラウドを含むインフラの販売など個人情報に依存しないビジネスモデルであることが多い)。
Appleは会社誕生の歴史的背景に加え、今では“特殊”となったビジネスモデルも背景に、プライバシー保護が今後、自社の強みになるということを理解した上で、もともと強かったプライバシー保護の姿勢をさらに強化し、他のインターネットビジネスには真似ができないレベルの厳しさ(真似してしまうとインターネットビジネスが破綻してしまうくらいのレベルの厳しさ)にする戦略に打って出る。
例えば、Safariも新しいバージョンが出るたびにプライバシー保護機能が強化され、「これではインターネット広告市場が崩壊する」などと度々、話題になる。
これから、IT機器とプライバシーの問題は新しい局面を迎えることになる。AIの活用だ。これまで多くのパソコンユーザーが、何か気になることがある度にGoogleなどで検索をしていたのと同様に、これからは何か気になることや用事を思いつく度に、スマートフォンやパソコンに組み込まれたAIエージェントに、そのことについて相談することになるはずだ。
人には言っていない持病での通院や、お見合い/デート、あるいは保育園への子供の送迎のスケジュールや連絡をAIに頼むこともあるだろう。この時、AIが本当に自分のしもべでAIに相談した内容が一切、外に漏れないなら安心して相談できる。
しかし、例えばそのAIに相談した情報が監視も厳しい独裁国家のサーバに保存されているとしたら、あなたはそのAIを安心して使えるだろうか? そもそも自由主義国のサーバなら良いのか? といった問題もある。
OpenAIを含め、AIを開発する各社は当然、将来、ユーザーがそういった懸念を持たないようにプライバシー保護第一の姿勢を示しているが、過去にそうした実績があるわけではない。
これに対して、AppleはSafariをリリースした当初から、かれこれ20年以上に渡って「プライバシーこそが最も重要」と言い続けてきた実績がある。
2025年から日本でも提供されるインテリジェンス機能「Apple Intelligence」でも、必要に応じてクラウドも利用するが、「Apple Private Compute」と呼ばれるApple Intelligence専用のクラウドサービスの情報は、そのユーザー専用に使われるクラウドとなっており、処理の実行後は速やかに情報を消すことが約束されている。
そもそも、他の大規模言語モデルが、何でもかんでもできるAIを目指すのに対して、Appleは安全の確認が取れたAIの活用から、1つずつ実装していくという慎重な姿勢にも違いを見て取れる。
1月28日、Appleはメディアに対してオンライン上の個人情報保護の重要性と、その保護機能を広める取り組みとして、ユーザーがAppleの全てのデバイス間でデータを制御するのに役立つ10のプライバシー保護機能の案内を行った。
Appleが掲げる10のプライバシー保護機能
| 機能名 | 内容 |
|---|---|
| アプリをロックする/非表示にする | アプリをロックしたり非表示にして、意図しない情報の表示を防ぐ |
| 特定の連絡先のみをアプリと共有する | アプリに全ての連絡先ではなく、特定の連絡先のみを共有可能 |
| デフォルトでSafariのプライベートブラウズウインドウをロックする | プライベートブラウズのタブをロックし、Face ID等で解除可能に |
| リンクトラッキングからの保護機能 | 不要なトラッキング用のURL情報を削除し、プライバシーを保護 |
| 個人情報安全性チェック | 情報の共有を即座に停止したり、共有相手や設定を確認/変更できる |
| アプリプライバシーレポート | アプリがデータ(位置情報、カメラ、マイク等)にアクセスする頻度を把握 |
| 「メールを非公開」 | ランダムなEメールアドレスを生成し、個人のEメールを非公開にできる |
| 大まかな現在位置 | アプリに「正確な位置情報」ではなく、「大まかな現在位置」を提供可能 |
| 録音/録画のインジケーター | アプリがマイク/カメラを使用している時にオレンジ/緑の点で通知 |
| iCloudプライベートリレー | SafariでWebを閲覧する際、誰にもユーザーの訪問履歴が分からないようにする |
だが、これらはAppleのプライバシー保護への取り組みのほんの一部でしかない。例えばApple Mapsによるルート検索でも、たまにGoogle Mapsと比べて精度が落ちてしまうことがあるが、これもユーザーがどのような経路案内を受けているかを傍受できないように数百m移動するごとに接続を切り替えるなど、説明されないと分からない本当に細かいところまで、ある意味、こだわり抜いたレベルにまでプライバシーの保護を行っている。
もちろん、OSやサービスというのは大勢の人の力を合わせて作っているものなので、間違いもあり、例えば1月4日にはSiriのプライバシー侵害に対しての集団訴訟でAppleから和解金が支払われたことで、Siriが盗聴しているのではないかというウワサが一部メディアで報道された。
しかし、実はこれは6年前の2019年、英Guardian紙にSiriが盗聴している恐れを指摘した問題で起きた裁判で、その時点ですぐにティム・クックCEO自身から説明が行われ、誤起動の原因の調査のデータがユーザーの許可を取らずに行われ、それが下請け会社の人に聞かれた可能性があるという問題で、速やかに対処が行われている。
こうした過去の失敗への対処も含め、プライバシー保護に対する姿勢の実績の積み上げが、これからのAI時代には大きなものをいうと思う。
AI時代にいよいよ本格突入する2025年の「データ・プライバシーの日」をきっかけに、ぜひ、読者の皆さんに自分がどんな個人情報を教えてしまったか、それは安全かを日々意識し始めてもらいたいと思う。
Appleはデータプライバシーを再構築できるか?
AppleのクックCEOが政策立案者とプライバシー・コミュニティーに訴えかけた未来
Appleが増大する個人情報への脅威を警告 セキュリティに関する最新報告書を公開
Appleのサイドローディング問題、独占制限の新法は誰のための法案か
iPhoneへの「マイナンバーカード」にまつわる誤解を解く プラスチックカードより安全だが課題もあるCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.