Appleの製品は、あまりマニアックな方向に走らず基本的に老若男女誰でも使え、だからこそ誰にでも勧められる安心感が大きな特徴となっている。そのような中にあって、かなり特殊な存在がちょうど20年前、2005年に発表された「Mac mini」だろう。
横須賀線のグリーン車での風景。コンパクトなテーブルでも、M4搭載Mac miniならMagic KeybaordとMagic Trackpad、そしてiPad Proを並べたら、まるでこのために設計されたのではないかというくらいピッタリの大きさだった創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は、「必要最低限しか備えていない、とにかく価格が安いMacがほしい」という声に応えたと、この製品を紹介した。「BYODKM」製品、つまり「Bring Your Own Display, Keyboard, and Mouse(キーボードとディスプレイ、マウスは自分で用意してね)」という形でアピールした。
そんなのWindowsはもちろん、Macのデスクトップモデルでも当たり前のことなのだけれど、あえてマニアックに言い回しにすることで、「なんだか難しそう」と感じた初心者ユーザーは、より親切なiMacに流れることを誘導していたのではないかと筆者は読んでいた。
初代Mac miniは正面にスロットイン式のDVDスーパーマルチドライブの挿入口があり、本体サイズはCDケースを2回りほど大きくした約165(幅)×165(奥行き)×51(高さ)mm、重量は約1.32kgだった。
ちなみに普通自動車のナンバープレートは高さが約165mmなので、あれを正方形に切り取ったくらいのサイズと考えると想像しやすい。価格は米国ドルで499ドルと599ドルだった(日本では5万8590円と6万6800円だ)。
発売後、それまでのMacにない小ささと手頃さが世界中の人々にインスピレーションを与え、Mac miniを数台購入して小型のサーバを構築する人、車に取り付けて車載コンピュータとして使う人などさまざまな人が登場した。いわば「偏愛系パソコン」という独自のポジションを築き、ジョブズ氏も喜んでそれを取り上げていた。
それからほぼ20年後の2024年10月、AppleはM4チップを搭載した新型Mac miniを発表した。
まず驚くのはコンパクトなボディーサイズで、もう1つ驚くのは、米国のインフレで他の製品が軒並み高くなる中で、製品価格は初代製品の高いモデルと同じ599ドルを維持している点だ。ただし、日本経済がミニ化し円安が進んでしまったために国内価格は9万4800円からと、一見高価になったように見えてしまうのが少し寂しいところではある。
そんなMac miniは、本体サイズと価格が手頃であることに加え、偏愛系パソコンであることも従来通りで、既にMac mini専用のポーチやトラベルケースなど、さまざまな“偏愛関連グッズ”も登場している。
そこで、Mac miniの偏った使い方の中でも話題になることが多い、モバイル用途でのMac miniを追求してみることにした。
湘南新宿ラインなど、一部グリーン車の最前列/最後列ではiPadを立て掛けた状態で、ほぼ半個室のような雰囲気で快適にビデオ編集の作業ができた。ただし、車内Wi-Fiは不安定だったのでiPhoneとのテザリング接続を利用したモバイル環境でMac miniを使う際に鍵を握るのが、Mac miniと一緒に使うディスプレイ、キーボードとマウス(トラックパッド)だ。これによって、モバイル環境での快適度が大きく変わってくる。
キーボードに関しては、量販店などに行けば折りたたんで持ち運べるキーボードがいくつか販売されている。筆者はMicrosoft製の折りたたみ式キーボード「Universal Foldable Keyboard」がデザインも使い勝手も良く気に入っていたが、引越しの時、どこかに詰めたまま出てこないし10年近くも前の製品なので新製品も登場していない。
そこで自宅で既に使っていたApple純正の「Magic Keyboard」と「Magic Trackpad」を使うことにした(日々、酷使しているものだけに写真でもキートップが汚れていることは許して欲しい)。
よく考えてみれば、Mac miniという製品が出てきたそもそもの理由は、できるだけ余計なお金はかけないこと。ならば、いつも使っているキーボードとトラックパッドでいいじゃないか、という点が挙げられる。
実はMagic Trackpadは、それなりに大きいけれど圧倒的に薄くて軽い(約230g)。そしてMagic Keyboardは約27.89cmとそれなりに幅はあるが、最厚部でも約1.09cmと十分薄い。日々、仕事で使っているのと同じ変わらないキーボードというのも利点だ。
だが、一番重視したのはTouch IDだ。モバイル、つまり屋外で使うPCとなると人目につくところでパスワード入力をする機会も増え、セキュリティ上あまりよろしくない。これがTouch ID付きのキーボードならパスワードを入力せず、指紋認証だけでログイン操作や承認操作を行える。特にバッテリーがない分、システム終了と起動することが多いことを考えても、これは結構、重要だと思う。
あまり変更要素が多いと取り止めがなくなるので、キーボードとトラックパッドはこの2つで決め打ちした上で、この記事ではディスプレイ、そして電源のバリエーションでさまざまな活用スタイルを試してみたい。
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