―― 5台に1台となると、現在の10%の普及率のさらに2倍となります。この普及率の達成に向けて、どんな手を打ちますか。
挽野 これを実現するのは「製品力」「需要創出力」「販売力」の3つの力の組み合わせだと思っています。今回のAll New Roombaの登場によって「製品力」が強化されました。
これを第1弾として、ますます「製品力」を高めていくことになります。2つめの「需要創出力」とはロボット掃除機を自分事化してもらうための施策であり、3つめの「販売力」は製品をお客さまに届け、使っていただくための力となります。
そして「製品力」「需要創出力」「販売力」を囲むような形で存在するのが、お客さまに対する「ケア力」です。ルンバを使い始めたお客さまに、ずっと使い続けていくために、どうケアするのかが大切な要素になります。使い続けていただければ、きっと、その良さを口コミで伝えていただけることにもつながります。
3つの力と、それを取り囲む1つの力の仕組みはそれぞれに出来上がっていますが、これをフレームワークとして構成し、統合する形で展開していくことが重要です。それによって、お客さまの声を次の製品に反映し、より良いモノ作りにつなげ、よりお客さまに満足していただけるといったサイクルを高回転で回すことができるようになります。
―― 一方で、メーカーシェアに関する発言はしていませんね。
挽野 例えば、年間1000万台を超える国内PC市場であれば、そうした議論も重要ですが、ロボット掃除機市場は、シェアを語るほど規模が大きくありません。国内掃除機市場全体で年間600万台であり、その10%の構成比ですから、私はそこでシェアを語ることに意味はないと考えています。
今はロボット掃除機市場にいるプレーヤーが、お互いに市場規模を広げていくステージであると思っています。製品のステージによって経営目標は変わってきます。もちろん、5台に1台という段階に入ってくると、シェアという話も意味を持ち始めるかもしれません。しかし、その時点でも大切なのは、少しでも多くの人にロボット掃除機を使ってもらうにはどうするか、ということになると思っています。
―― アイロボットジャパンの初代社長として、経営の舵取りではどんな点にこだわってきましたか。
挽野 私は、前職がボーズの社長であり、それ以前は、20年間に渡り、ヒューレット・パッカード(当時)に在籍していました。ヒューレット・パッカードには、企業理念として「HP Way」があります。
これは、人は良い仕事や創造的な仕事をやりたいと願っており、それにふさわしい環境に置かれれば、誰でもそれができるという信念に基づいたものです。トップダウンでガンガンやるという手法もありますが、最終的な決断は私が行って責任を取るにしても、お客さまや市場に近い現場がアイデアを出し、実行しやすい環境を作ることを私は大切にしてきました。
提案しやすい風土作りや失敗しても学ぶことを評価し、次につながることを重視する文化を醸成することにこだわっています。日本法人設立前までは、ルンバの国内販売をセールス・オンデマンドが一手に引き受けており、そこから多くの社員がアイロボットジャパンに移籍してきました。
当時は100人弱の企業ですから、誰が何をやっているかが分かる規模です。自分で決めることができる人と、決めることは得意ではないがフォローする仕事はしっかりとやる人というように、社員の特性を把握できる範囲ですから、それを見極めて、それぞれに仕事を任せるといったことにも配慮してきました。
今も月2回のペースで、全社員向けの「オールハンズ通信」と私に直接レポートする社員を対象にした「リーダーシップ通信」を、それぞれ配信しています。これらを通じて、私が何を考えているのか、あるいは、どんな課題に直面して、どんな対策をとったのかといったことも共有しています。
これは社員には言っていないのですが、私が積極的に発信している理由の1つに、単に情報を共有するだけでなく、言葉にして伝える難しさや大切さを社員全員に理解をしてほしいという狙いがあります。アイロボットジャパンに新たに入社する社員が増え、セールス・オンデマンド時代から在籍している社員同士が暗黙知で進めてきた仕事の仕方がなかなか通用しなくなり、お互いが言葉で伝えあうことが重要になってきました。
アイロボットには「Builder's Code」という行動指針があり、その1つに「Debate & Commit」があります。お互いの意見を戦わせ、相手の考えを理解し、議論して決め、決定したことはみんなでサポートしあい、実行するというものです。言葉で伝えてお互いが理解した上で、仕事を進めるという文化が浸透したことは、アイロボットジャパンの成長にとって大切なポイントだったといえます。
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