徹底解説:iOS 26.2で解禁される「代替ストア・決済・ブラウザ」のメリットと、ユーザーが知っておくべきリスク:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2025年12月18日 17時25分 公開
[本田雅一,ITmedia]

WebKit以外の「ブラウザ(HTML)エンジン」を利用可能に

 従来、iOS(とiPadOS)向けのWebブラウザアプリでは、純正の「Safari」と同じブラウザ(HTML)エンジン「WebKit」を使う必要があった。Windows/macOSやAndroidとは異なり、「Chrome」だろうが「Firefox」だろうが「Microsoft Edge」だろうが、表示の結果はSafariと変わらなかった。

 この点、iOS 26.2以降はWebKit“以外の”HTMLエンジンを「代替ブラウザエンジン」として利用できるようになった。その結果、Chrome/Edgeの「Blink」、Firefoxの「Gecko」といった著名なHTMLエンジンがiOSにやってくる可能性がある。

 ただし、代替ブラウザエンジンを使用するには「厳格なセキュリティおよびプライバシーに関する要件」を満たす必要がある。Appleはこの要件の詳細を明らかにしていないが、EUにおける実装を参考にすると、以下の要件が盛り込まれているものと思われる。

  • サンドボックス化の徹底
  • メモリ安全性の確保
  • 定期的なセキュリティアップデートの提供
  • プライバシー保護機能の実装

 ブラウザエンジンの多様化は、Web開発者にとってはテストの複雑化を意味する。一方で、「WebGPU」「Web Codecs」といった特定HTMLエンジンでしか動作しない先進的なWeb機能をiOSでも利用できるようになるというメリットも考えられる。

EU向け 現時点で日本における代替ブラウザエンジンの要件は公表されていないが、EUにおける要件は公表されている

決済システムに加わる「選択肢」と「7日間ルール」

 iOS 26.2以降では、App Storeで配信されるアプリのアプリ内決済について、従来の「アプリ内購入」に加えて「アプリ内代替決済」「外部リンク決済」の選択肢が追加される。それぞれの違いは以下の通りとなる。

決済方法 App Storeで配信されるアプリで利用できる決済オプション

 選択肢のラインアップ自体はEU向けと変わりないのだが、日本では代替決済や外部リンク決済を実装する場合でも、従来通りの「アプリ内購入」を必ず併記(実装)する義務があることがポイントだ。常にAppleが提供する決済システムを利用できるので、「ユーザーが既存の決済方法を望んでいるのに、それを選べない」ということがなくなる。

 また、外部リンク経由の決済に適用される「7日間ルール」も、興味深い仕組みだ。アプリ内から外部Webサイトへのリンクをユーザーがタップすると、そこから7日間の「アトリビューション期間」が始まる。この期間内に発生した当該デベロッパーとの取引には、15%(優遇対象の場合は10%)のストアサービス手数料が適用される。7日を超えた後の取引には、手数料がかからない。

 Appleが「ユーザーをアプリに誘導するまでの貢献に対する対価」と「開発者の商取引の自由のバランスを取ろうとしたものと解釈できる。

 なお、iOSのアプリ内購入機能と代替決済では異なる価格設定も可能だ。具体的にいうと、代替決済ではAppleに支払う手数料が少なくなる分だけ“値下げ”しやすいということだ。もちろん、両方の価格をアプリ内で併記/提示してユーザーに選んでもらうこともできる(App Storeのダウンロードページには記載できない)。

 ただしAppleは、EUでの実績として「手数料率の低下が、消費者価格の低下につながっていない」とも指摘している。つまり、現実にはAppleに支払う手数料が削減された分は、そのまま開発者の利益として吸収されることも考えられる。

アイコン アプリ内で代替決済のリンクを設ける場合は、App Storeでの決済(アプリ内購入)と同じサイズで表示する必要がある

青少年保護規定も用意

 決済面において、日本のスマホ新法では青少年に対する保護規定を盛り込んでいる。これはEUのDMAと大きく異なるポイントで、以下のように定められている。

青少年保護規定 アプリにおける外部課金の規制

 「ペアレンタルゲート」とは、購入前に親/保護者の承認を求める仕組みだ。これにより、代替決済を使った場合でも未成年者が保護者の知らないうちに課金することを防止できる。これもDMAにはない保護規定で、Appleと公正取引委員会の協議で生まれた成果といえる。

「新機能の遅延」は“ほぼゼロ”に

 EUのDMAでは、要件の1つとして「Interoperability by Design」が定められている。これがiPhone(iOS)ユーザーに深刻な影響を与えている。

 日本語に訳すと、Interoperability by Designは「設計による相互運用性」を意味する。言葉の通り、新機能を搭載する場合は競合他社のプラットフォームやデバイスでも同等の機能が使えるように求める規制だ。

 Apple(iPhone)視点でいえば、「Android OSを搭載するスマートフォンでも同じ機能を使えるようにしなさい」ということである。逆のGoogle(Androidデバイス)視点も同様で「iPhoneでも同じ機能を使えるようにしなさい」ということになる。

IOPEU Interoperability by Designは、EUが推進する「IOPEU(Interoperable Europe:相互運用可能なヨーロッパ)」という政策の一環でもある(ポータルサイト)

 日本にいるとあまり気が付かないことだが、この要件はヨーロッパにおけるiOS 26の新機能の実装にも以下の通り影響を及ぼしている。

  • ライブ翻訳:リリース遅延(競合プラットフォームへの対応作業中)
  • iPhoneミラーリング:提供見送り(技術的都合+セキュリティへの懸念)

 さらに深刻なのは、FacebookやInstagramを提供するMeta Platforms(Meta)が、このInteroperability by Designを“利用”してユーザーの「Wi-Fi(無線LAN)接続履歴」「全ての通知内容」の確認を行えるようにすることを求めている。

 特にWi-Fi接続履歴の開示は、ユーザーが訪れた場所(病院/ホテル/その他施設)を訪れたかを推測できるため、プライバシー上のリスクとして指摘されてきた。

Meta Appleが2024年12月にリリースしたレポートによると、MetaはInteroperability by Designを“利用”して10の機能において「相互運用性」のリクエストを行ったという

 それに対して、日本のスマホ新法ではInteroperability by Designのような規定は設けられていない。そのため、Appleは相互運用性の確保に関するリクエストに対し、以下の観点から個別に評価/判断できる。

  • 技術的な実現可能性
  • 必要な開発リソース
  • プライバシーへの影響
  • セキュリティリスク
  • ユーザーにとっての実質的なメリット

 Appleによると、日本ではEUのような新機能リリースの遅延は「大幅に低減される」と説明している。ただし、個別判断するということは見方を変えると“単一の基準”が存在しないということでもあり、「ケースバイケース」となる懸念は出てくるかもしれない。

 例えば先日、GoogleはPixelスマートフォンにおいてiPhoneとの「AirDrop」互換機能を実現すると発表した。スマホ新法の施行後、日本向けiPhoneにおけるこうした相互運用機能の扱いはどうなるのだろうか。というのも、これは「相互運用性に関するリクエスト」を通して実現したと見られるからだ。

 この点について、Appleは「1つ1つ個別に、どういう影響が発生するかを評価する必要がある」と明言を避けた。

 一見、消費者にとってこのポリシーは「新機能の実装を止めるリスク」と映るかもしれない。しかし、日本の法律が相互運用性について柔軟な対応を認めていることの裏返しでもある。EUのように一律の対応を強いられることはなく、どのリクエストに応じるかはAppleの裁量に委ねられる部分が大きい。

Pixel Pixel 10シリーズの「Quick Share」を使って、AirDropのファイル転送を行えるようになった

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