Appleが「スマホソフトウェア競争促進法」に12の提案 iPhoneの安全性はどうなる?(1/2 ページ)

» 2025年06月19日 05時00分 公開
[林信行ITmedia]

 6月9日(現地時間)から行われた、Appleの開発者会議「WWDC25」の終了に合わせるように、公正取引委員会による「スマホソフトウェア競争促進法」(スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)についてのパブリックコメント募集が締め切られた

 これに合わせて、Appleも26ページからなる意見書を提出している。

Appleが公取委に意見書を提出

 Appleが最も懸念しているのは、法案が可決前と変わらず「日本の消費者の皆さんがAppleに期待する革新的でプライベート、かつ安全なユーザー体験を損ねてしまう可能性」があることだ。

 この2月には「第1回デジタル競争グローバルフォーラム:規制と国際連携」で、Appleも新法可決を受け入れつつも、その上で提供できるユーザーにとっての最善を考えていると報じた。

 意見書はまさに、その最善を模索して、まだ詳細の決まっていない法律が少しでもユーザーにとっての不利益がないように求めている。

 先に同様の法律である「デジタル市場法」(DMA)を施行したEU圏と比べると、日本はまだ公正取引委員会にユーザーの安全性に対しての配慮があり、悪意あるアプリを広める可能性が高いWebブラウザからの直接ダウンロードを禁じた点から、説明すれば安全上の懸念を理解し配慮してくれる、という期待を持ったのかもしれない。

Apple スマホソフトウェア競争促進法 デジタル市場法 DMA 意見書 WWDC25 6月13日に、「スマホソフトウェア競争促進法」についてのパブリックコメント募集が締め切られた。iPhoneを取り巻く状況はどうなるのだろうか?

Metaが歓迎するDMA 欧州から見えてくる懸念材料

 Appleがスマホ新法に対して相変わらず抱いている最大の不安は、他社が運営する代替アプリストアを通して悪質なアプリが広まり、ユーザーのセキュリティが脅かされ、プライバシーが危険にさらされることだ。

 ただ、これまでと違い欧州という先行事例ができたため、どのような危険が生じるかを実例で示せるようになった。欧州では他社製アプリストアが出てきたことで、話題になったアプリ以外にもオンラインカジノなどのギャンブルアプリや詐欺アプリ、そして海賊版的なアプリが増えてきたという。

 問題は悪質なアプリだけではない。

 欧州のDMA法では、アプリ開発者などによるOS機能へのアクセス要求を受け付けているが、このアクセス要求を一番多く出しているのが、昨今、悪質な広告戦略などでも悪評の多いMetaだと、Appleが2024年12月に総務省に提出した「高まるプライバシー侵害のリスク――デジタル市場法(DMA)のOS機能へのアクセス規定の悪用によるプライベートな情報の漏洩の危険性」(参考資料19-3)という資料で述べられている。

Apple スマホソフトウェア競争促進法 デジタル市場法 DMA 意見書 WWDC25 Metaからのリクエストがあった機能については、Appleが提出した資料にまとめられている

 そして同社は、Appleが提供する非常に広範なOS機能にアクセスできることを要求しているという。

 例えば、MetaのスマートグラスやMeta Questなどの人気商品が、こうした外部デバイスの利用には一切関係ないように思われるAirPlay(ユーザーの自宅に関する情報も登録される)、App Intent(アプリの機能を外部から呼び出す技術)、CarPlay、連携カメラ(MacなどからiPhoneのカメラを起動して利用するための機能)、ユーザーに届く通知を管理する通知センター、MacからiPhoneを遠隔操作できるようにするiPhoneミラーリング、Bluetooth接続デバイス、さらには極めてプライベートなメッセージ機能などへのアクセスを要求しているようだ。

 Appleは、Metaが既にユーザーのプライバシーを侵害した実績がある企業と名指しした上で、DMAの規定を悪用してセンシティブなユーザーデータにアクセスしようとしていると指摘している。

 Appleは、基本的にユーザーのプライバシーに関するデータは、ユーザーが自分で管理し、Appleも中身をのぞけない状態を保つのが良いと考えている。それに対し、それらのデータを使って広告ビジネスを営んでいるMetaなどの企業は「ユーザーの情報を自社のサーバに転送し、個人データを組み合わせてプロファイリングを行い、それを収益につなげようとする可能性がある」とも指摘している。

 もし、AppleがMetaの全てのリクエストに応じると、MetaはFacebook/Instagram/WhatsAppといった自社アプリで、ユーザーのデバイス上のメッセージやメールを読んだり、通話の発信や受信を確認したり、ユーザーが利用したアプリを追跡したり、写真/ファイル/カレンダーのイベントを閲覧したり、パスワードを記録するなど、さまざまなことができるようになると警告をしている。

 ちなみに5月14日、スマホ新法の可決に合わせるようにグーグル合同会社、クアルコムジャパン合同会社、Facebook Japan合同会社、Garmin Internationalの4社が、業界団体「オープンデジタルビジネスコンソーシアム」を発足した。「特定プラットフォームに依存しないシームレスな接続性・相互運用性を目指す」とメッセージを発している。

 MetaやGoogleが広告で収益を得ているからといって、彼らが「シームレスな接続」のために求めるOSへのアクセスが、本当にユーザーのプライバシー情報を狙ってのものかは分からない。しかし、一度、穴が開けば、今、国際的にも深刻な広がりを見せているマルウェアなども確実にそこを狙ってくる。

 Appleは、そういった危険からユーザーを守るために、欧州ではiPhoneミラーリングなどの一部機能を提供していない。提供すれば悪用され、ユーザーを危険にさらす危険があるので、提供したくてもできないのだ。

 隣の部屋でiPhoneを充電中の時でも、iPhoneにしか入れていないアプリに届いた通知をMacから確認できるため重宝している人も多いはずだが、スマホ新法施行後は日本も同様になる可能性がある。

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