Appleの「激安」クリエイターツールは仕事で使える? 月額1780円という圧倒的コスパと“3つの死角”打倒Adobe/Microsoftなるか?(1/4 ページ)

» 2026年01月29日 06時00分 公開
[林信行ITmedia]

 Appleが、これまで見られなかった製品群を発表した。

 現時点でライバルのいないクリエイター向けスイート(アプリ群)の「Adobe Creative Cloud Pro」(月額9080円/年額10万2960円)、圧倒的マジョリティーのビジネススイートである「Microsoft 365」(Personal版で月額2130円/年額2万1000円)。PCでデジタル制作を仕事にしている人の中には、この両方に登録して月額1万1210円近くを支払っている企業や個人ユーザーも少なくないだろう。

Apple Creator Studio クリエイター スイート オフィス 低価格 安い アドビ マイクロソフト 「Apple Creator Studio」で利用可能なアプリ。これまで個別に提供していた8本のアプリに、2024年買収したPixelmator Proを合わせた9本が、Liquid Glassのアプリアイコンと画面デザインで統一感を出して1つのアプリスイートになった。そのコストパフォーマンスは圧倒的だ。Final Cut ProやLogic Pro、Pixelmator Proなど、Mac用とiPad用が別々に提供されていたアプリが1個のサブスクリプションで利用できるのも魅力である

 そのような中に、月額1780円(年額1万7800円)という圧倒的な安さで一石を投じたのが「Apple Creator Studio」だ。含まれるアプリは画像編集の「Pixelmator Pro」、動画編集の「Final Cut Pro」、音楽編集の「Logic Pro」、モーショングラフィック作成の「Motion」、動画圧縮加工の「Compressor」、音楽ライブ演奏を支援する「MainStage」、さらにはワープロの「Pages」、表計算の「Numbers」、プレゼンテーションの「Keynote」の合計9本で圧倒的お得に見える。

 これまで大きな競合のなかったAdobeおよびMicrosoftのスイートだが、今回の発表がこれら両スイートを置き換えるまではいかなくても、価格見直しなどに向けたプレッシャーを与えうる大きな脅威となる――そんなストーリーになるのかなと期待をしながら、待望のApple製アプリスイートを先行体験した。

 先に結論を伝えると、その通りの感想となった。ただし、長く業界を見てきた1人として、いくつか提言しなければならないこともあるように感じた。

 以下、4つの視点で触れていきたい。

商業レベルの音と映像の作り込みを他社よりもはるかに安く

 Apple Creator Studioを使うことで、写真の加工からソーシャルメディアや印刷用のチラシ作成、本格的なビデオ編集から音の加工まで幅広いクリエイティブ作業がかなり高いクオリティでできてしまう。何しろ、そもそもFinal Cut ProやLogic Pro、Motionは、プロの映画監督や映像クリエイター/ミュージシャンが商業品質の作品作りに活用している本格的ソフトだ。うまく使いこなせば、かなりすごい作品が作れてしまうことは間違いない。

 では、同じくプロ用ツールを提供しているAdobeのアプリ群とどう違うのだろうか。

 映像編集の「Premiere Pro」とFinal Cut Proを比較してみよう。これらのソフトは、そもそも開発が始まった時期や、その時代のビデオ撮影の方法を含むアプリの成り立ちも大きく異なれば、編集作業の進め方の哲学などもかなり違う。

 それゆえ、一方のツールを使っていると、もう片方を使うには頭の切り替えや慣れが必要で、一概に優劣を比較することはできない。

 個人的な印象で大雑把に評価をさせてもらえれば、Premiere Proは、ほとんど使うことのない機能も含めてかなり機能がてんこ盛りだ。それらの豊富な道具を職人のようにうまく使いこなせば、非常に凝った細かい表現なども作り込める小回りの利く映像編集ソフトだ。

 これに対してFinal Cut Proは、特殊な操作をするための機能は少なめで、基本的な編集を高品質に行うことに軸足を置いている印象がある。クリエイターが表現したいことを、素直にあまりいじり過ぎることなく表現するのに向いている気がする。

 基本を重視する設計なので、ゼロからの習得は早く、取り扱うビデオクリップなども整然と整理しながら作業を進める感じだ(もちろん、極めればかなり高度なこともできる)。

 このPremiere ProとFinal Cut Proの違いは、他のAdobeおよびMicrosoft製アプリと、Apple製アプリの違いにもよく似ている。

Apple Creator Studio クリエイター スイート オフィス 低価格 安い アドビ マイクロソフト 新しくなったFinal Cut Proの新機能の1つであるビート検出。音声トラックに加えた、音楽のビートに合わせたビデオ編集を行える

 多種多様なユーザーのニーズに、丁寧に対応を続けてきたAdobeやMicrosoftのアプリは、ほとんどの人が使わないものも含めてとにかく機能が豊富で、そのぶん初心者は機能量に圧倒されることもある(それでも近年、機能はかなり断捨離と整理がされ分かりやすくなった)。

 対してAppleは、制作をする人間の邪魔をしないように、そもそもあまり機能を目立たせず、基本をしっかりやることに重点を置いている。画面デザインなどの情報のデザインにたけているので直感的に使える(よく言うのだが、Wordの校正書類もWordで見るよりもPagesで見た方が、どこをどう直したいのかが分かりやすいことが多い)。

 作る喜びを味わいたいならApple製アプリ、細かく作り込むのを楽しみたいならAdobeやMicrosoft製アプリというのが筆者の見立てだ。

Apple Creator Studio クリエイター スイート オフィス 低価格 安い アドビ マイクロソフト iPad版のFinal Cut Proには、適当に選んだクリップを並べていい感じのビデオクリップを自動生成してくれるモンタージュメーカーという機能も追加された。これをたたき台にしてクリップを追加したり、入れ替えたりして簡単にソーシャルメディアなどに投稿する映像を制作できる

 しかし、道具と人には相性がある。実際に手になじむかなじまないかは人それぞれだ。本当に自分の手になじむかは、実際に自分で試してみないと分からない。幸運にも、いずれの会社のアプリも無料体験期間などを用意しているので、自分との相性はぜひ使い比べてみるべきだろう。

 ただ、Apple Creator Studioが注目に値するのは、プロ品質のツールを含む、いずれも粒ぞろいのアプリを9本セットで、他社製アプリ群と比べても圧倒的に安価な月額料金で提供していることだろう。

 セットで提供することで、例えば映像編集はするけれど、音にはそれほどこだわっていなかった人が、何かの気付きで音にもこだわり始める、という新しいきっかけを提供している。

 それを言ったらAdobeもCreative Cloudの一部としてPremiere Proと音加工のAuditionを提供しているが、正規価格で比較すると5倍以上だ。

 例えば「映像編集はどうしても仕事で必要だし、慣れているPremiere Proを使いたい」と言う人がいたとしよう。その際、全24本がセットのAdobe Creative Cloud Proをやめる、Adobe Premiere Proの単体利用の契約に切り替えれば月額3280円で済む。そこにApple Creator Studioの月額料金1780円を加えても5060円で、Adobe Creative Cloudのフルパッケージよりもはるかに安い。

 Apple Creator Studioの提供開始後は、AdobeやMicrosoftはアプリスイート契約から、単体アプリ契約に切り替える人が増えるのではないかと思っている。

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