しかし、それだけでは魅力的な製品は作れない。未来のコンピュータのビジョンに興奮した20代のスティーブ・ジョブズは、新設計のLisaの細部に至るまですさまじい熱量でこだわりの作り込みを行うようにチームに要求する。
しかし、20代の大学中退者の細か過ぎる意見は、博士号を持つコンピュータの専門家たちには疎まれていた。結局、ジョブズはLisaチームから総スカンを喰らいチームを追い出されてしまう。
Apple初の企業向けコンピュータ「Lisa」。操作画面などはMacに似ているが、Macintoshの象徴とも言えるAppleメニューはない。メモリやOS設計などはMacより優れていたが、高価だった。初期のMacintoshは、Macintosh用アプリの開発をする能力がなかったため、LisaはMacintoshのアプリ開発環境としても用いられていた(現在、iPhone用アプリの開発にMacを用いるのに少し似ている)。Lisaに関しては「Before Macintosh」という無料のドキュメンタリー映画がYouTubeで公開されている若きジョブズ氏はしばらく悔しさに打ちのめされるが、その後、スタンフォード人工知能研究所の客員研究員も務めたことのあるジェフ・ラスキン氏という技術者が進めていたMacintoshという家電のような親しみやすさを持つコンピュータの開発プロジェクトを乗っ取り、結果的にラスキン氏を追い出してLisaに似たマウス操作のパソコンのプロジェクトに強引に切り替えてしまった。
Lisaの社内競合ではあるが、当時のAppleの経営陣はLisaが本命だと思っていたので、面倒なジョブズ氏をLisaチームから引き離せるのならとMacintoshの開発はジョブズの自由にさせていた。
1983年にLisaが9995ドルで発売され、1984年にMacが2495ドルで発売された。Lisaの方がスペックなどは高く、技術的にも優れたものを持っていたが、価格が高価でなかなかソフトが増えなかった(まだ1983年頃はApple IIが全盛時代だった)。
Macは有名な1984の広告なども使って大々的なマーケティングが行われ、価格が安かったこともあり、注目を集めたのはMacの方だった。
見てすぐに使い方が分かる設計はLisaと同じで、Appleは(コンピュータマニアに)取り残された普通の人々のためのコンピュータといった意味合いで、「Computer for the rest of us」を広告コピーに使っていた。
ただし、分かりやすさは普通の人向けだったが、実際に使おうとすると価格を安く抑えるためにメモリ容量が少なく、FDの容量が少ない(400KB)こともあり、ソフトの使用中に何度も「FDを交換してください」と作業が中断し、使いづらい部分もあった。
そんなMacを見て、アラン・ケイ氏は「世界初の評価に値するコンピュータ」とする一方で「4分の1ガロン(約1リットル)のガソリンタンクしか持たないホンダ車」とも評した(要するに理想は素晴らしいが、実用的ではないという意味だ)。
製品が完成する頃には、Apple内でもMacintoshへの期待が高まっており最初の100日で10万台ほど売れ、数百万台規模で売れることを期待していた。しかし、最初の4カ月で7万台ほどを売った後は、メモリやFDの容量不足による使いにくさなどの悪評も広まり失速し始め、初年度の出荷台数は25万台ほどにとどまった。
その後、Appleはメモリ容量を512KBに増やしたMacintosh 512Kや、大幅に仕様を強化したMacintosh Plus、そして外付けのHDDを発表する形で徐々に問題は解消したが、Macintoshの売り上げにそれ以上に大きな変化を及ぼしたのは、DTPというコンピュータの新しい使い方の誕生だった。
コンピュータの歴史を変えた初代Macintosh。スティーブ・ジョブズ氏がキッチン家電のクイジナートのようなイメージにして欲しいと頼み、Apple IIと同じジェリー・マノック氏がデザインを手掛けた。海賊旗を掲げたビルで同製品を開発した初代Macチームに関しては、数多くの伝記物語が残っている。ジョブズ氏は、彼らに妥協せず高い品質を目指すアーティストになれと語っていたという。メンバーの一人、アンディー・ハーツフェルド氏がまとめたFolkloreには開発時の面白い逸話がたくさん書かれている(日本語版書籍にもなっている。「レボリューション・イン・ザ・バレー」という本にまとめられた)
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