コンシューマー市場が飽和する中で、ここ数年の新規契約数を底上げしてきたのが、「法人市場」の存在だ。2008年のリーマン・ショック以降、景況悪化で逆風も吹くが、潜在的な市場規模と成長の“伸びしろ”の大きさは、依然として携帯電話業界にとって重要だ。
この法人市場の開拓に、NTTドコモはどのような戦略で臨むのか。前編に引き続き、NTTドコモ 法人ビジネス戦略部長の三木茂氏に話を聞いた。
―― 音声サービスと低廉な料金を武器にするキャリアからは、「景況悪化で、これからは(初期投資が大きいソリューションよりも)基本料・通話料の安い携帯電話が求められる」という意見が出ています。この点について、どのように考えられますか。
三木氏 私はモバイルソリューション市場の需要は底堅く、まだまだ伸びると考えています。具体的に申しますと、これまでのモバイルソリューションの展開は大企業が中心で、中小企業は音声契約が中心でソリューション(需要の喚起)が未開拓でした。しかし、こういった厳しい経営環境にある今こそ、中小企業もモバイルソリューションの活用でコスト削減や生産性の拡大を考えなければなりません。
―― 景況悪化で厳しい状況だからこそ、「どれだけ業務効率が改善できるか」が重要になる、と。
三木氏 そうです。生き残りが重要になる時こそ、生産性や効率性での必要性から、モバイルソリューションの需要が生まれてきます。
―― 自動車産業などは象徴的なのですけれども、この3月いっぱいは世界経済や業界全体の動きを「様子見」している傾向が強い。ただ、ひとたび今後の市場や業界の方向性が見えれば、その中で生産性を向上するための投資は動き出すのかな、と感じています。
三木氏 ええ、今後の経済状況がどうなるにせよ、「見通し」がある程度つけば、ソリューション分野の投資は動き出すでしょう。また、我々もそういった(業務改善や生産性向上のための)提案をもっと積極的にしていかなければなりません。
―― しかし、現実問題として、中小企業のソリューション投資は、大企業ほど予算が確保できないという課題もあります。
三木氏 我々も導入費用の低減は重要なテーマだと考えています。ですから、まず最初に(法人市場向けの)「価格を抑えた端末」を用意します。また中小企業が導入しやすいパッケージ型のソリューションも用意していく方針です。
―― ドコモの法人戦略では、「BtoBtoC」市場向けのモバイルソリューションも重視してきました。この分野での2009年の見通しはいかがでしょうか。
三木氏 BtoBtoC分野では、ドコモは多くの商材を持っています。例えば、CRMのASPである「Mobile Avenue(モバイルアベニュー)」や、昨年ドコモとオムロンヘルスケアが共同開発をはじめた「ウェルネスプラットフォーム」など、さまざまなASPサービスがあります。医療・ヘルスケア分野などは、(法人向けの)BtoBtoC市場だけでなく、オールドコモで取り組んでいる分野の1つですね。
ほかにも、セーフティ&セキュリティ分野にも注力しています。例えば最近の取り組みですと、今春から小学校や学習塾向けに児童の登下校状況を確認したり、連絡事項を提供するASP「こどモニタ」を提供します。
―― ヘルスケアや子どもの安心・安全は社会的ニーズが高い分野ですし、今後の成長が見込める市場ですね。特に「こどモニタ」は子どもの安全を守るツールとして、全国の小学校で積極的に採用してほしいところです。
三木氏 ええ、子供の安全を守ることは、携帯電話キャリアにとって重要なテーマの1つだと考えています。ですから、今回の「こどモニタ」ではドコモだけでなく、他社の携帯電話も利用できるマルチキャリア対応にしました。こうした安心・安全分野のモバイルソリューションは、ドコモ一社の利益に固執するのではなく、業界全体で育てていかなければなりません。
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