「iPhoneという先端のデバイスを使って、伝統ある観光街の魅力を新鮮さを持って伝えたかった」と平氏は言う。また、ユーザーの現在地に合わせて情報を提供できるセカイカメラなどのiPhoneアプリは、古い趣のある街と相性がいいとも平氏は感じている。
「高山は景観に厳しい街で、看板など街の表記に規制があります。古くからある趣が崩れて、昔からの観光客が去ってしまってはいけないということで、過激な色づかいはできません。しかし、アプリで見る情報なら問題ない。特にセカイカメラは一種の“電子看板”であり、端末をかざせば見られる。しかもバーチャルな空間でコンテンツを探す面白みがある」(平氏)
こうしてセカイカメラの取り組みが始まったのが2009年10月。以来、店舗兼展示スペースの「ひだっち獅子ギャラリー」でiPhone 3GSを観光客に貸し出し、セカイカメラでクイズラリーが楽しめる観光コースを案内している。クイズラリーのコース中には商店街が含まれており、散策の中で利用者の足が自然と商店街に向うようになっている。
気になるのは、こうしたiPhoneアプリによる街おこしがどのような効果を生みだしているかだ。「まだ取り組んで1年も経っておらず、発展段階。大成功しているわけではないが、評価はもらえている」と、平氏は話す。観光客に対するiPhoneの貸し出し回数は、6月末時点で70組程度とそれほど多くない。プロジェクトの目的である観光客の回遊性の向上という点では、さらに多くの観光客にサービスの存在を知ってもらう必要がある。
しかし、観光客に対する端末貸し出しや説明などを行っている田端恵氏は、「最近では、iPhoneをすでに持たれていて、クイズの回答用紙だけもらいにくるケースが増えてきた」とも話す。「わざわざiPhoneの取り組みを体験するために来られる方もいらっしゃいます。また、高山はリピーターも多いのですが、いつもと違った魅力が体験できるといって使っていただけることもあります」(田端氏)。
さらに、観光客がセカイカメラで街の感想を投稿し、それに別の利用者がコメントを返すなど、アプリを起点としたコミュニケーションが生まれていることにも田端氏は可能性を感じている。ひだっちプロジェクトではTwitterアカウント「@hida_ch」を設けて街の情報を発信しているが、観光客が投稿したセカイカメラのエアタグに田端氏がコメントしたのをきっかけに、Twitterでも交流するようになったりと、ITを活用した観光客とのつながりが徐々に生まれているようだ。
「『秋に高山に行くからお店に寄っていくね』と言われたり、『iPhoneの取り組みを紹介しておくよ』と言ってもらえたり。少しずつですが、Twitterのフォロワーも増えてきました」(田端氏)
さらに、“セカイカメラによるAR観光案内”という試みに多くのメディアが注目したことも、うれしい反応だった。「県が取り組んでいるということもあって、高山の事例がメディアによく取り上げられました。全国ネットのテレビでも放映され、今年の4月ごろから特に取り組みの認知度が上がってきたと感じます」(平氏)。さらに、地方からiPhoneの取り組みに対する視察の希望がいくつも舞い込んだりと、高山に対する注目が高まっているのだという。
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