ITは「もっと自由で勝手で、ばかばかしくていい」 ポストペット八谷氏×セカイカメラ井口氏サイエンスフューチャーの創造者たち(3/4 ページ)

» 2010年10月01日 11時00分 公開
[山田祐介,ITmedia]

Fairy FinderってARですよね?

井口 Fairy Finder(※3)についても話を聞かせてください。あの作品ってもろにARですよね?

※3 「Fairy Finder」は、「不可視なものを見せる」ことをテーマにしたシリーズ作品。紙管やコースターといった道具を使うと、目の前にある“見えない世界”をのぞき見ることができる

八谷 そうですね、ARです。

井口 2005年の作品ですけど、当時からARを意識してやられたんですか?

photo Fairy Finder 03「コロボックルのテーブル」(2006)

八谷 ある程度意識していました。多くのARって、ARマーカーは現実に目の前にあるんだけど、キャラクターが映し出されるのはモニターなわけですよね。「ここにマーカーがあるならホントにここに出したいよね」って思って。拡張現実にはいろいろ面白い可能性があるんじゃないかなとも思っていたので、まず作ってみれば自分の勉強になるかなと考えてシリーズを作りはじめました。

 で、不可視なものを見るという点では、「見ることは信じること」ともつながっているけど、有用な情報というよりも「心霊写真見ちゃった」的な、普段見たいと思っている物じゃないほうを追求してみようかと。

井口 ああ、それはとても共感できますね。今セカイカメラは「BEYOND REALITY」というテーマを掲げているんですが、まさにそんな感覚です。

八谷 あと、実はARに関してはFairy Finderのずっと前に、「ミルク」というプロジェクトをやったことがありました。2000年ごろの話です。東大の廣瀬通孝教授や建築家の隈研吾さんと一緒にやったもので、2005年の愛知万博に向けた展示の実証実験でした。愛知万博では里山の環境保全が問題になっていて、「建物をなるべく建てずにARで展示しよう」という構想があったんです。それで、RFタグを茂みとかに入れといて、近づくと身につけた装置がタグを検出して、Windows CEマシンがコンテンツを再生し、それがHMDに表示される、といったシステムを作りました。

 ある意味、セカイカメラ的なモノを愛知万博でやろうと思っていたわけです。でも、やはりそれは2005年にはやや無理目の目標だった。当時、「ARは難しいな」と思ったのを覚えています。コンテンツをCGMで作ることも十分にはできなかったし、服にバッテリーとかマシンを仕込んでたんですが、結構重かった。

 だから、だからセカイカメラ出たときに、「とうとう完成したか!」と思ったんです。

井口 そういうこと、いろんな人から言われます(笑)

八谷 だから、出るべくして出たんじゃないでしょうか。人間の欲求は、いつかテクノロジーで実現するんだと思いますよ。セカイカメラを使ってみたり、井口さんのインタビューとか見ていると、自分も何かやりたい気分になってきます。

井口 ぜひ!

八谷 井口さんのやりたいことはプラットフォームなんですよね? 僕はもう少しアプリケーション志向というか、いいアプリケーションがあれば、セカイカメラの評価ってもっとよくなると思うんですよ。

 位置情報を利用するとすごく面白いことができそうというのは、みんな分かっているんだけど、まだいいアプリケーションがない。セカイカメラは、そこにもう一歩のところまできている感じがするんです。

井口 そういう意味で、僕らは最近セカイアプリというゲーム機能を加えました。ゲームってコンテキストがはっきりしてるから、説明があんまりいらない。それって重要なことなんです。今までの状態だと、かざして何ができるかというのが分かりにくかった。でもゲームならパッとイメージが浮かぶ。レバレッジといえばレバレッジです。立ち上げる価値が上がるような仕組みは今後もどんどん導入していきたい。

八谷 個人的にはセカイカメラに関しては、例えば音声ナビゲーションサービスをメインでやったりすると面白いかもと思うんです。「セカイラジオ」みたいな(笑)。例えば、立ち上げたままヘッドフォンを付けていると、登録しておいた食べ物とか映画の趣味に応じて、カワイイ声で「右手50メートルに星三つのとんこつラーメン屋があります」「前方80メートルで、見たいと思っていた映画が間もなく上映です。空席があるようです」「この書店はコミックが充実しています」みたいに音声で教えてくれる。そのあと、カメラをかざすと詳細が見れる。音声ならバッテリーだってもっと持つので、移動時に常時起動に出来ると思う。

 あと、人間って情報としては視覚が一番大きいと思うんだけど、感情に働きかけるのは、情報として少ない感覚の方だと思ってて。ラブプラスでいいなと思ったのは、音に時間とリソースをつぎ込んでいること。ラブプラスの登場で、視覚じゃないところでARやVR(バーチャルリアリティー)を作った方がいいんじゃないのかってことに気付かされたんです。だから、セカイカメラを音声だけでつきつめてみるのも、試す価値はあるんじゃないでしょうか。

現実を拡張したかった

井口 OpenSky(※4)のプロジェクトについても聞かせてください。メーヴェといっていいのか……あれはメディアアートなんですか?

※4 OpenSkyは、アニメ「風の谷のナウシカ」に登場する飛行装置「メーヴェ」から着想を得た一人乗り飛行機を実際に開発するプロジェクト

photo テスト飛行の様子

八谷 ……拡張現実ですかね。

井口 あー! なるほど!

八谷 次世代のために現実をもう少し拡張しておきたいなと思ったんです。メーヴェのない世界はつまらないから、そういうものがある現実を作ろうと思ったんです。

井口 空を飛ぶとか、そういうことに対する執着って自分も子供のころはあったと思うんですが、今は薄れがちです。八谷さんが現実を拡張してまでメーヴェのような飛行機を作ろうとする執念ってすごいと思います。しかも非常に長いプロジェクトですよね。

八谷 小さいころって、自分の身の回りの世界が幼稚園とか小学校とかそのぐらいしかなくて、それを広げようと自転車で遠くまで行ってみたりしますよね。その延長線に空を飛ぶ願望とかもあったはずなんです。ライセンスをとって飛行機を操縦するって考え方もあるけど、僕はどちらかというと物を作りたい人なので、現実を拡張してみようと思い立ちました。

 で、ちゃんと飛んだら完結なんですけど、少し時間がかかりすぎてますね。今7年目です。でも今年中に飛ぼうと思ってますし、その準備は全部してきています。エンジンもすでに付いているし。

井口 お話を聞いていて、以前八谷さんがTwitterで紹介していた中国の“農民ダビンチ”を思い出しました。中国の農民が独学で飛行機や潜水艦を作っているという。

八谷 ああ、蔡国強さんがキュレーションした展覧会ですよね。あの展示で紹介された飛行機とかって、飛ぶのもあれば飛ばないのもあるんですけど、作っている人たちは大学とかで勉強してきたわけではなくて、みんな素人で。でも「作りたいから作る」というそれだけで活動している。そういうチャレンジングスピリッツというか、「ついやっちゃう」という一種の不用意さみたいなものが、日本から失われているものの1つなんじゃないかという気がします。どうしても「ビジネスになるのか?」「意味があるのか?」という視点から始まってしまう。

井口 青臭いものが否定されがちというか、「もっとプラン考えろ」とかいわれてしまいますものね。

八谷 青臭いというのは、人間の本当の気持ちに近いところで発生しているものだから、ビジネスになったら逆に大きくなるはずなんですよ。そこが大きくならない社会というのは、ちょっと問題があるように思わなくもないです。

井口 日本人って本来、一種の幼稚さとかはちゃめちゃさを持っているはずなんですけどね。

八谷 そういったものとビジネスが別のレイヤーだということにされすぎている。ホントはそんなにレイヤー分けしなくてもいいんじゃないかなと思います。

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