2010年の新車販売台数が109万2411台と過去最高を記録したドイツのプレミアムカーブランド「アウディ」――。同ブランドは日本においても1月、2月のそれぞれで、同じ月における月間登録台数が過去最高を記録するなど好調だ。新たにラインアップされたコンパクトカー「A1」や、モデルチェンジしたフラッグシップ「A8」が呼び水となり、販売店への来場者が増えているという。
そんなアウディの販売店では今、iPadを使った接客が試みられている。アウディのブランド哲学である「技術による先進(Vorsprung durch Technik)」に従い、新型車に次々と新しいテクノロジーが加わる中、「売り方も変わっていかなければいけない」と、アウディ ジャパン代表取締役社長の大喜多寛氏は話す。
同氏に、アウディ ジャパンにおけるiPad活用のメリットと運用方針を聞いた。
アウディの正規販売店では現在、ほぼ全てのセールススタッフにiPadが配布されており、約500台のiPadが導入されている。導入のきっかけを作ったのは、2010年12月に発売した新型A8だった。ドイツでA8のオリエンテーションを受けた大喜多氏は、あまりの情報量の多さに驚き、接客に従来と異なるアプローチが必要だと感じたという。
「エクステリア、インテリア、エンジン、駆動系、新技術、入力インタフェースなど、全ての説明を受けたんですが、『これは覚えきれないな』と思いました。ドイツの開発担当者が毎日A8に乗って、全ての機能を覚えるのに1カ月かかったというんです。全部魅力的な情報だけれども、営業スタッフが全てを覚えて、お客様に説明するというのには限界があった」(大喜多氏)
車の魅力をどうやって顧客に伝えればいいのか、思案を巡らせていた大喜多氏にヒントを与えたのは、Amazonの電子書籍リーダー「Kindle」だった。携帯性に優れ、ボタン操作で目的の情報をスムーズに表示できる電子デバイス――そうしたものを販売スタッフに持たせて接客をするイメージが、大喜多氏の中にできあがった。そんな折に、同氏はiPadの存在を知る。
大型のカラー液晶ディスプレイを備え、豊かな表現力を備えるiPadならば、例えば車で実演することが難しい機能も動画で見せることができる。iPadが営業スタッフの「ベストツール」となると直感した大喜多氏は、導入に向けて動き始めた。また、A8の販売にあたっては、単なる営業スタッフのツールにとどまらないiPadの活用方法を考案する。それは、エクスクルーシブなモデルであるA8ならではのアイデアだ。
「iPadを営業スタッフに渡すだけでなく、取扱説明書をiPadの中に入れてお客様にお渡ししたい、そんなことを去年から社内で言い続けていました。今、A8を買っていただいたお客様には、アウディやA8の情報が入ったiPadをお渡ししています。納車まで1カ月以上かかるので、その間にiPadを通じてA8について知ってもらい、車が来たらすぐ使いこなしていただければ、という考えでやっています」(大喜多氏)
こうした大喜多氏の意向で、1月には販売スタッフにiPadが配布された。スタッフ向けiPadには、商談をサポートするソリューションとして、iPadに最適化したカタログやWebコンテンツ、さらには支払いシミュレーションといったアプリケーションが用意された。
顧客向けにはアプリ「Audi A8 - The Art of Progress」を提供。同アプリはApp Storeから入手が可能だ。アプリにはA8の動画、機能説明、カタログ、画像ギャラリー、ブランドヒストリーといった各種のコンテンツを盛り込んだ。また、端末の位置情報を使って最寄りのディーラーを探すディーラーサーチ機能も搭載し、店舗までのナビゲーションや、店舗に対するメールなどが、アプリを通じて可能となっている。A8オーナー専用コーナーも設け、アクセサリーやメンテナンスの情報、オーナー向けイベントなどの情報提供に活用していくという。
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