さまざまな企業がスマートデバイスを導入し始めているが、その効果については、上がっているところもあればそうでないところもある。この差はいったい、どこから生じるのだろうか。
スマートデバイスの“成功する導入”を考える本連載の第2回では、実際に導入効果が上がった企業の事例を検証する。今回の事例では、“どの業務からiPadに対応させるか”という優先順位の判断が的確だったことが成功につながったと筆者は見ている。
成功事例を検証する前に、まずはスマートデバイスの導入で業務がどう変わるのかをおさらいしよう。
スマートデバイス活用の王道ともいえるのが、電子メールやグループウェアの閲覧用途での導入だ。通勤や移動中の電車の中、乗り換えの待ち時間、帰宅後など、時間や場所を選ばす電子メールやグループウェアを確認できるようになり、業務の効率化が期待できる。
同じような使い方は、フィーチャーフォンならコンテンツ記述の変換ゲートウェイを設置することで、PCならリモートアクセス環境を用意することで実現できる。しかし、スマートデバイスなら、必ずしも変換ゲートウェイは必要なく、同様の環境をより安価に構築できる。また、スマートデバイスはスタンバイ状態から瞬時に起動するので、電車待ちなどの隙間時間にスムーズに情報を確認できるのがPCと異なる。
クラウド型のグループウェアを利用すれば、さらに導入効果の向上が見込めるだろう。会社のスケジューラや掲示板などのグループウェアに、オフィスでは自席のPCから、移動中はスマートフォンから、自宅では自分のPCやタブレット端末からアクセスでき、時間や場所を選ばず業務をこなせるようになる。
多くの企業は意思決定のスピードアップや企業コンプライアンスの推進などを目的に、各種申請決裁業務の電子化を図っている。出勤管理の届出から稟議書承認などの意思決定まで、さまざまのプロセスがその対象となってきた。
こうした申請決裁業務は、(1)申請/起案するプロセス (2)承認するプロセス の2つに分けられる。起案はじっくり腰をすえて検討し、推敲する時間が必要であるので、スマートデバイスで作業するのは難しい。一方、承認については移動中や待ち時間にスマートデバイスで行うのも不可能ではない。
承認プロセスをボトルネックにさせないために、これまでは幹部社員が常にPCを持ち歩かなければならなかった。しかし、スマートデバイスを活用すれば、スピーディに決裁すべき書類にたどりつける上、フィーチャーフォンでは難しかった添付データの閲覧も可能になるなど、より決裁業務がしやすくなる。
このようなメリットがあることから、決裁用端末としてのスマートデバイス活用には大きな期待が寄せられている。
片手にiPadを持ち、電子化したカタログを見せながら商品やサービスを説明する――。こんなタブレット端末の使い方で、営業を効率化させる事例が急速に増えている。
コンテンツも紙の販促資料をそのまま移植したものから、動画やWebアプリケーションと連動させたものまで、さまざまである。展示会などで、来場者を商品説明用のPCまで誘導するのは難しいものだが、タブレット端末を利用すれば、自ら顧客に近づき、短時間で分かりやすい説明ができる。
企業がスマートデバイスに寄せる期待は大きく、ほかにもさまざま用途が生まれつつある。会議の資料をタブレット端末に配布し、ERP(enterprise resource planning)システムのダッシュボード閲覧のための端末として、また、ビジネス・インテリジェンスツール用の情報閲覧端末としてタブレットを利用する例も増えている。こうした使い方は、会議のスムーズな進行につながるだけでなく、資料の印刷にかかる手間や時間、紙の無駄をなくし、印刷に伴う情報漏えいリスクを低減するという効果も期待できる。
また、製造現場では、粉じんなどの問題でPCを設置できなかった場所にタブレット端末を持ち込み、タイムリーに作業指示書を確認したいという要望も挙がっているようだ。
スマートデバイスは、フィーチャーフォンとPCがオーバーラップする領域で利用されることが多く、これらの端末でこなしていた業務の効率を高められるという期待から利用シーンを考えることが多い。しかし、業務での活用を考える上で重要なのは、スマートデバイスを使うことが目的ではないという点だ。いかに業務効率を高められるか、それまでできなかったことをどのように実現できるのか――といったように、スマートデバイスを課題を解決するためのツールとしてとらえ、導入を考える必要がある。
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