スマートデバイスの導入、成功を左右するのはスマートデバイスのビジネス活用を考える(2)(2/2 ページ)

» 2011年08月09日 18時25分 公開
[小澤浩一/内山英子(KCCS),ITmedia]
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iPad導入の成功事例

 次にタブレット端末の導入で業務の効率化に成功した、ある企業の事例を見ていこう。

 A社は、販促資料と学習用の教材をインストールしたiPadを、営業系の業務に従事する従業員(以下、営業スタッフ)に配布した。販促資料や教材データは、iPadに標準搭載されている電子書籍リーダー「iBooks」で閲覧可能なePub形式やPDF形式のものを会社側で用意。ほかにも、営業スタッフが作成した提案書などをiPad上で使えるようにするシステムを用意した。営業スタッフは、個別にカスタマイズした販促ツールを利用して営業活動を開始した。

 A社は、スタッフがiPadを使った営業活動に慣れてきた頃に、営業日報システムやメール、グループウェアをiPadに対応させた。多くの企業が、メールやグループウェアの利用からスタートするのに対し、A社は逆の取り組みをしたことになる。

 iPadの導入は、A社の業務にどのような効果をもたらしたのだろうか。1つは、顧客の意思決定までの時間が短くなったことだ。従来は顧客の意思決定までに3回の商談を必要としていたものが、1回になったケースもあるという。

 これはiPad向けに作られた表現力の豊かな販促資料により、経験の浅い営業スタッフでも顧客に十分な商品情報や特長を伝えられるようになったことによる効果だ。紙のカタログによる営業では、顧客の意思決定はスタッフの営業力とスキルに左右され、属人性や職人芸に依存するところが大きかったが、iPadとリッチな販促資料が営業スキルを底上げし、案件獲得までの時間が短縮したというわけだ。

 2つ目が、顧客との商談の機会が増えたことだ。展示会などでPCを使って商品説明をする場合には、買い手がその商品に関心を持っていなければ、PCの前まで来てもらうことすら難しく、説明の機会さえつくれないことも多い。これがタブレット端末なら、立って歩きながら説明ができる上、動画や音声を使った紙をはるかに超える表現力で顧客の目を引きつけられる。A社も、こうした接点を生かして商談機会を増やしたという。

A社はなぜ、効果的な導入に成功したのか

 A社が成功した理由の1つに挙げられるのが、導入効果が見えやすい営業の業務からiPadの活用を始めたことだ。iPadが営業で役立つツールであることをスタッフが実感すれば、あとから導入したメールやグループウェアも自然と使うようになる。

 いくらiPadが使いやすいといっても、スタッフのリテラシーも違えば、新しいツールに対する積極性も違う。社員が必要性やメリットを感じなければ「机の肥やし」となることが危惧されるわけだ。メールやグループウェアの利用では、スタッフによってはそれをメリットと感じないかもしれないし、利便性を感じるまでにツールの使いこなしで挫折するスタッフもいるかもしれない。

 その点A社は、最優先で取り組むべき商談からiPadの活用をスタートし、目に見える効果を実感できるようにした。社員がiPadの活用に意欲的になったところで、自作の営業資料などのコンテンツを使えるようにし、デバイスに習熟してきた頃に日報やメールなどを対応させる――というように、段階的に導入を進めたことが成功につながった。

スマートデバイス導入の課題は

 iPadの導入で営業の効率化を図ったA社だが、効果が現れるまでには、さまざまな課題もあったという。1つは、現場スタッフからさまざまな要望が寄せられ、その対応に追われたことだ。おりからのスマートデバイスブームで、世間にはさまざまな情報があふれている。これを目にした現場の従業員からは「うちの社内でも○○ができるようにしてほしい」といった要望が多数挙がったという。要望を整理して実現の可否を判断し、スタッフにフィードバックする作業は、IT部門にとって通常のユーザーサポート以上に負担が大きかったようだ。

 2つ目は、さまざまな作業を人海戦術でやることになった点だ。今では、スマートデバイスを管理するためのMDM(Mobile Device Management)製品が多数登場しているが、iPadの発売当初は対応するソリューションがなく、スタッフ全員分の端末設定からアプリケーションのインストールまでを、人海戦術でやらざるを得なかったという。

 無線LANや起動時のパスワードロックなど、複数台のデバイスに同じ設定をするだけでも大変な作業であったが、IDの問題はさらに煩雑だ。例えばiPadやiPhoneなどのiOS端末は、アプリケーションをAppStoreから購入する場合にAppleIDが必要となる。これまで企業で大量にiPadを導入するような場合は、iPadごとにそれぞれ異なるAppleIDを用意する必要があった。さらに、そのAppleIDを使用して1台ずつ手作業で購入操作を行うのである。Android端末でもGoogleアカウントなどは似たような状況となる。

 このように、スマートデバイスの導入にあたっては、PCでは考えられなかったようなさまざまな課題が出てくることを想定し、心の準備をしておく必要もあるようだ。

執筆者プロフィール:小澤浩一(おざわこういち)

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 京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 ネットワークサービス事業本部 コミュニケーションサービス事業部 事業部長。

 1996年、京セラコミュニケーションシステムに入社。ID管理や文書管理などの自社パッケージシステム「GreenOffice」シリーズの開発企画に携わる。2009年10月よりコミュニケーションサービス事業部事業部長に就任。データ通信サービス「KWINS」をはじめとするリモートアクセス/モバイルアクセス、仮想デスクトップなどのサービス事業に携わる。近年では、リモートアクセス/モバイルアクセスでの経験を活かし、スマートフォンやタブレット端末など、PCに限らないさまざまな情報端末の導入支援やアプリケーション開発に取り組む。



執筆者プロフィール:内山英子(うちやまひでこ)

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 京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 事業推進本部 事業推進部 企画1部 部長 公認情報システム監査人。

 大学卒業後に外資系企業にシステムエンジニアとして入社。数多くのIT企業の日本におけるスタートアップに携わった後、2002年に京セラコミュニケーションシステム入社。セキュリティ関連の事業開発責任者や米SOX法対応に関する同社のシステム導入プロジェクトに携わる。現在はICT関連事業のマーケティング、プロモーションを担当。



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