こんな導入は失敗する――スマートデバイス、企業活用のポイントはスマートデバイスのビジネス活用を考える(1)

» 2011年06月13日 19時40分 公開
[小澤浩一/内山英子(KCCS),ITmedia]

 2010年は、iPadの登場やiPhoneの成功に刺激された携帯キャリア各社が、Android端末のラインアップを拡充するなど、スマートデバイスが大きくブレークした1年となった。そして2011年は、スマートデバイスの普及元年になると予想されている。

 こうしたトレンドを受けて、スマートデバイスの導入や活用を検討する企業が増加しており、すでに数々の成功事例も生まれている。しかし、期待したほどの成果を上げられない企業もまだ多いようだ。

 成果が上がらないケースでは、何が問題だったのか。何が要因となって成否が分かれたのであろうか――。

 筆者は、社外から社内ネットワークにアクセスするためのリモートアクセスサービスや、顧客企業内のサービスデスクのアウトソーシングサービスを提供する企業に在籍しており、さまざまな企業からスマートデバイスの導入に関する相談を受けている。

 また、実際にいくつかの企業で、スマートデバイスの導入や展開をサポートする機会を得た。こうした経験から、企業がスマートデバイスを導入する際に陥りやすい落とし穴と効果を発揮するために必要な取り組みを紹介したいと思う。筆者の経験が読者のスマートフォンやタブレット端末活用のお役に立てれば幸いである。

Photo タブレットブームのきっかけをつくったiPad(アップル)は、新モデルの「iPad 2」が登場。カメラの搭載で、業務利用の新たな可能性が広がった
Photo ドコモはSamsungの「GALAXY Tab」を、KDDIはMotorolaの「XOOM Wi-Fi TBi11M」を投入している

スマートデバイス導入の失敗例

 スマートデバイスの法人活用においては、多くの企業がその活用法で苦労している。そして導入時に、企業が意外と陥りやすいのがこのパターンだ。

  • ケース1

「ライバル企業が導入したから、うちも入れないと。(ところで何に使う?)」

 取引先から「あら、○○さんはまだなの? (競合の)▲▲さんは、このあいだタブレット端末を持ってきて説明してくれたよ。あれは分かりやすくていいね」などといわれて慌てて導入してはみたものの、使いこなせていない――というケースだ。目的を考えずに導入してしまい、あとで困るケースは案外多い。

  • ケース2

「営業スタッフに配ってみたが、年配のスタッフは机にしまったまま。若手はいろいろと遊んでいるらしい」

 スマートフォンもタブレット端末も、もとはコンシューマー向けのデバイスであり、今や女性層や主婦層にも普及し始めている。しかし、だからといって誰もがすぐに使いこなし、仕事に役立てられるわけではない。ある程度のリテラシーや端末に関する興味が必要になる。使いこなすための基本的な教育やガイドラインを用意しないと、「よく分からないから、机に入れっぱなし」ということになりかねない。

  • ケース3

「携帯電話をスマートフォンに置き換えてみたが、現場から“バッテリーが持たない”と大クレーム。結局、スマートフォンとフィーチャーフォン(従来型携帯電話)の2台持ちになった」

 現行のスマートフォンは、データ通信や音声通話をそれなりに使うと、バッテリーが1日持たないものがほとんどである。その結果、夕方にはメールが読めないどころか、通話もできないという惨事につながる場合もある。結局、スマートフォンとフィーチャーフォンを支給することになり、多額の通信費用を支払うことになる。

  • ケース4

「現場は導入を歓迎しているが、IT部門はPCの導入時より負担が増えている。徹夜でキッティング作業(業務端末に設定を施す作業)するなんて何年ぶりだろう」

 スマートデバイスは、もともとコンシューマー向けのデバイスである。長年の間にいろいろと運用環境が進化し、ベンダーもさまざまにサービスをつけてくれるPCと同じように考えていると痛い目にあう。スマートフォンやタブレット端末については、最近でこそいろいろと法人向けのサービスがリリースされるようになったが、それでも法人向けの機能やサービスは不十分で、人海戦術で乗り切らなければならないことも多いのが実態である。

 こうした例は、いままでいくつかの企業から受けた相談を多少デフォルメしたものだが、読者の方々のまわりにも同じような状況に陥っている方がいるかもしない。

企業の動向とビジネスコンシューマーのニーズ

 上述のような失敗例もあるものの、多くの企業はスマートフォンやタブレット端末の導入に意欲的である。2010年の時点で導入企業は、スマートフォンが7%、タブレット端末が7%と決して多くなかった(MCPC「スマートフォン・タブレット最新市場予測」 2010年11月26日より)。

 しかし、2011年の調査では、対象となった企業の20%近くが既に導入しており、同じく20%近くが今後の導入に前向きであるという調査結果も出ている(IDGインタラクティブ 「【Computerworld調査】スマートフォンビジネス利用」2011年2月28日より)。

 2011年はスマートデバイスの企業導入元年とも言われているが、スマートデバイスの何が企業を導入に向かわせているのだろうか。

  • PDA+携帯電話との違いは、クラウド連携

 今から10年ほど前の2000年頃にもPlam OSに代表されるPDAが流行し、ビジネスコンシューマー市場でデジタル化が進んだ時代があった。当時もスマートフォンによく似たデバイスが発売されたが、今のようにブレークすることはなかった。

 その当時と現在で決定的に異なるのは、スマートフォンがいつでもどこでもネットワークに接続できるものであるということと、ビジネスパーソンが利用したいと考える機能がどんどんクラウド化し、インターネット上のサービスとして提供されるようになったという2点だ。

 当時、ここまでのポジションを得ることができず消えていったPDAが、10年経った現在、インターネット、クラウドサービスの力を借りてスマートフォンとして広く普及することになった。

 スマートフォンでクラウド上のサービスを使い、その利便性を感じたビジネスパーソンが、「社内のメールシステムや社内の決裁システムもスマートフォンで使えるのではないか」「タブレット端末ならばノートPCと同じように資料作成もできるのではないか」とスマートフォンやタブレット端末のビジネス利用に期待を寄せているのだ。

  • コンシューマーから法人への逆流

 これまでICTの世界では、PCや携帯電話がそうであったように、まず企業内で利用されていたものが普及とともに低価格化し、コンシューマー市場でも販売されるというケースが多かった。これに対して、スマートフォンやタブレット端末は、コンシューマー市場でポジションを得たものが、企業内にも逆流してきたという形になっている。このあたりもスマートフォンやタブレット端末のビジネス利用の課題となるが、それは次回以降に触れていく。

企業側のニーズ

 使う側だけでなく、企業側にもスマートフォンやタブレット端末に期待するものがある。1つはコストと利便性である。そして、顧客とのより豊かなコミュニケーションを図る手段としても注目を集めている。

  • コスト削減への期待

 PCの導入コストは年々安くなっているとはいえ、業務に耐える処理能力を備え、持ち運べる軽さのノートPCは、10万円台中盤から後半と決して安くない。これに通信機能を付加すると月額数千円の通信費用がかかる。

 しかし、PCを使って外出先で行う業務が、「メールを読む」「社内のWebシステムを使用する」という程度であれば、スマートデバイスでも対応できる。スマートデバイスは5〜6万円程度で購入できるものがほとんどで、導入コストが安価にすむ。

  • セキュリティと利便性への期待

 セキュリティと利便性のバランスも重要だ。個人情報保護法の施行前後から、企業はPCの社外持ち出しに神経をとがらせるようになった。

 ハードディスクの暗号化やアンチウイルスなどの対策ソフトの導入をはじめ、ネットワーク接続時に検疫を行うなどITによる対策を行っている。加えて、PC持ち出し時の申請や端末内にデータを残さない運用を徹底させるなど、多大なコストと労力をかけて対策を講じている。

 このようなコストや手間がかかることを嫌い、PCの社外持ち出しを禁止した企業も少なくない。その結果、どこでもネットワークを使える時代であるにもかかわらず、オフィスに戻らないと社内情報にアクセスできないという環境下にあるビジネスパーソンも多い。

 このように、セキュリティ確保を優先する中で失われた利便性を回復するものとして、スマートフォンやタブレット端末に期待が寄せられている。スマートデバイスを利用する場合も、PCと同じように盗難や紛失の危険性はあるが、そもそも行える業務をメール閲覧に限定したり、デバイス側にデータが残らない仕組みを使ったり、遠隔消去を可能にするということで、PCの持ち出しよりもリスクが小さいと考える企業は多い。

  • 顧客とのコミュニケーションを向上させるツールとしての期待

 スマートデバイスは、顧客とのコミュニケーションを向上させるツールとしても期待されている。特にiPadに代表されるタブレット端末でその傾向は顕著だ。

 営業担当者が顧客に商品を説明する際には、紙の販促資料や実物を見せながら、営業スタッフ自身の経験や記憶をもとに商品やサービスの説明をしていることがほとんどだろう。このような従来型の説明やプレゼンテーションの弱点を補い、顧客とのコミュニケーションを強化するものとしてタブレット端末が期待されている。

 顧客に対しては、動画などを使った表現力豊かなコンテンツで商品を紹介できるとともに、営業担当者のスキルや経験に依存することなく、商品情報を伝えられる点がメリットになる。運用面では、同じ資料を複数の営業スタッフに一斉配信できることや、各種情報の改訂にタイムリーに対応できる点がメリットといえるだろう。

 このように、ユーザー側と企業側という両面のニーズや期待に押されて、スマートフォンやタブレット端末の法人利用への取り組みが進んでいる。

 次回は、スマートデバイス導入の成否を分けるポイントについて詳しく述べたい。

執筆者プロフィール:小澤浩一(おざわこういち)

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 京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 ネットワークサービス事業本部 コミュニケーションサービス事業部 事業部長。

 1996年、京セラコミュニケーションシステムに入社。ID管理や文書管理などの自社パッケージシステム「GreenOffice」シリーズの開発企画に携わる。2009年10月よりコミュニケーションサービス事業部事業部長に就任。データ通信サービス「KWINS」をはじめとするリモートアクセス/モバイルアクセス、仮想デスクトップなどのサービス事業に携わる。近年では、リモートアクセス/モバイルアクセスでの経験を活かし、スマートフォンやタブレットPCなどパソコンに限らない様々な情報端末の導入支援やアプリケーション開発に取り組む。



執筆者プロフィール:内山英子(うちやまひでこ)

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 京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 事業推進本部 事業推進部 企画1部 部長 公認情報システム監査人。

 大学卒業後に外資系企業にシステムエンジニアとして入社。数多くのIT企業の日本におけるスタートアップに携わった後、2002年に京セラコミュニケーションシステム入社。セキュリティ関連の事業開発責任者や米SOX法対応に関する同社のシステム導入プロジェクトに携わる。現在はICT関連事業のマーケティング、プロモーションを担当。



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