米Adobe Systemsがモバイル戦略を大きく変更したのは2011年秋のことだ。Adobeはモバイルブラウザ向けFlash Playerの開発を打ち切り、HTML5とAdobe AIRに注力すると発表した。
戦略を変更した背景や今後の注力分野、モバイル市場の展望について、Adobe Systemsプラットフォームエバンジェリズム担当ディレクターのベン・フォルタ(Ben Forta)氏に聞いた。
―― モバイルブラウザ向けFlash Playerの開発を中止すると発表しました。その後のモバイル市場への取り組みについて教えてください。
ベン・フォルタ氏(以下、フォルタ氏) モバイルブラウザ向けFlash Playerの開発は中止したが、モバイルへの取り組みは強化していく計画だ。
Flashにはブラウザ内で動くFlashランタイムと、Flashでネイティブアプリを開発できるAIRランタイムがある。開発者はFlashでアプリを開発すれば、AIRを使ってiPhone、Android向けにネイティブアプリ化できる。MWC(Mobile World Congress 2012)の初日に、「Adobe AIR 3.2」「Adobe Flash Player 11.2」のリリース候補版を公開したが、まもなく正式版を提供できる見通しだ。特にAIRのアップデートではGPUサポートが強化され、ハードウェアアクセラレーションによる2D、3Dグラフィックの高速化といった高度な機能をFlash開発者が利用できるようになる。
ブラウザ内で動くFlashランタイムの需要は減っており、アプリの需要が高まっていることから、Flashの展開は端末上で動くアプリケーションに絞っている。また、市場が活発な動きをみせているエンターテインメントやゲームの分野でクリエイティブなコンテンツを開発できるよう機能を改善しているので、開発者は創造性を発揮できるだろう。
もろもろの結果として、モバイルブラウザ向けFlash Playerへの投資は打ち切ることにした。Appleが締め出したときに、これ以上続けても成功しないと判断した。
―― モバイル向けFlash Playerへの投資を打ち切ることに対する開発者の反応は。
フォルタ氏 反応は好意的なものだった。というのも、Flashはなくなるわけでもないし、滅びるわけでもない。実際、アプリストアのベストセラーの多くはFlashで作成されており、成功している技術といえるだろう。
開発を打ち切るという声明は、確かに開発者を混乱させたかもしれないが、われわれはここ数カ月間、今後の方針や開発者の支援体制を明確にする努力を続けてきた。幸い、アプリに対する開発者の関心は高く、ネイティブアプリを構築できるAIRに対する満足度も高い。これは、スマートフォンユーザーの多くがブラウザよりアプリを利用していることもあるだろう。アプリの潜在市場は大きく、常に進化している分野であることからチャンスも大きい。
―― HTML5への取り組みについて教えてください。
フォルタ氏 HTML5の問題は、“どうやってモバイルアプリを構築するか”が課題といえるだろう。アプリ側でわれわれが感じているのは、いくつかの方法から自分の好きなものを選びたいという開発者やデザイナーのニーズだ。
Adobeは、クリエイティブなコンテンツを作るためのさまざまなツールを提供している。現在、ネイティブアプリを開発したいという開発者は、Flashで開発してAIRでパッケージできる。あるいは、HTML5、JavaScript、CSSなどのWeb標準の技術を利用する場合は、「PhoneGAP」(Adobeが買収したNitobiのクロスプラットフォーム技術。同社はオープンソース化した)などの技術を使ってパッケージできる。このほか、HTML5、CSS、JavaScriptを使ってアニメーションコンテンツを作成する「Adobe Edge」のプレビューも公開している。
これらのモバイル向け開発ツールに加え、Creative Suite製品でもHTML5への対応を進めている。仕様の策定にも協力しており、雑誌のようなレイアウトを実現するための「CSS Shaders」「CSS Regions」の仕様策定にも貢献しており、ここではAppleなどと協力している。
―― PhoneGAPと同様、クロスプラットフォームをうたうモバイル向け開発ツールはほかにもいくつかあります。PhoneGAPの強みは。
フォルタ氏 まず、サポートする端末(OS)が幅広いことだ。iOS、Androidだけでなく、旧バージョンのWindows Mobile、旧バージョンのBlackBerry、Symbianなどにも対応する。軽さも強みといえる。Web開発者は、既存のスキルを使ってWebアプリを開発するのと同じ感覚でアプリを開発できる。拡張性に優れているのもメリットといえるだろう。
PhoneGAPで構築されたアプリの数は、すでに5万以上に達しており、その中の1つに「Wikipedia」がある。もともとはネイティブアプリだったが、PhoneGAPを使って開発したAndroid版を数週間前に再リリースした。Wikipediaのようなメジャーなアプリが利用しているというのは、PhoneGAPの実力を示す好例といえる。
PhoneGAPはオープンソース化したが、Adobeは今後もPhoneGAPの改善に努める。PhoneGAPフレームワーク上にサービスを構築しており、PhoneGAPでサービスを書いてクラウドにアップロードするようなサービスを考えている。
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