スマートフォンの台頭で、一時は“ネットワーク土管化”の危機にさらされた日本の通信キャリア。スマートフォン向けに用意されたアプリやマーケット、サービスには、通信キャリアがユーザーを囲い込むのに役立つ要素が少なかったからだ。
“素の状態”でスマートフォンを提供し続ければ、ネットワークの土管化は避けられず、顧客を失うことになりかねない。そのため、通信キャリアは、スマートフォンが本格的な普及期に入る前に“スマホ時代ならではのサービスのあり方”を考え、新たなビジネスモデルを取り入れる必要があった。
そんな日本の通信キャリアの中でも、特に“土管化回避”を強く意識しているのがNTTドコモだ。代表取締役社長を務める山田隆持氏は、ことあるごとに「ネットワークの土管化は何としても避けたい」と強調しており、同社がiPhoneに手を出さないのも、“自社サービスを組み込む余地がなく、土管としての役割を担うことになってしまうためでは”と噂されるほどだ。
そんなドコモが、スマートデバイス時代のサービス開発手段として重要視しているのが「ドコモクラウド」。メールや電話帳、マルチメディアデータアーカイブサービスなどの個人向けサービスを提供するための基盤となる「パーソナルクラウド」、企業が業務効率化を推進するのに必要なソリューションを集めた「ビジネスクラウド」、“通信キャリアならでは”のサービス開発に不可欠な「ネットワーククラウド」で構成され、中でもネットワーククラウドは、同社が“モバイルを核とした総合サービス企業”へと進化する中で最も重要な手段”に位置付けている。
5月30日、モバイルワイヤレスジャパン2012の基調講演に登壇した同社社長の山田氏が、ネットワーククラウドに言及。その仕組みとユーザーにもたらすメリット、今後の新サービスについて説明した。
ネットワーククラウドは、これまで端末側で行っていた高度な処理をクラウド側で行えるよう、ネットワークにさまざまな機能を組み込んだ情報処理基盤。すでに、待受画面上のキャラクターに話しかけると、各種機能の設定や操作、検索などを行う「しゃべってコンシェル」、メールを外国語に翻訳して相手に送信する「メール翻訳コンシェル」、通話の内容を外国語に翻訳して相手に伝える「通訳電話サービス」(試験サービス中)などに採用されている。
その効果はさまざまなところに現れる。端末側に特別な機能を用意する必要がないので、ユーザーは“対応機種かどうか”を気にせずサービスを利用でき、「高度なサービスをリーズナブルな料金で提供できる」(山田氏)のも強みになるという。ドコモのネットワークを使わなければサービスを利用できなくなるため、ユーザーの囲い込みにも貢献。もちろん、“土管化”も防げる。「端末のところでサービスができてしまうと、ネットワークが完全に土管になってしまう。ドコモは何としてもネットワークに付加価値をつける方向で行きたい。ネットワークの土管化はぜひ避けたいと強く思っている」(同)
サービスのユーザー数は順調に増えているといい、3月にサービスを開始した「しゃべってコンシェル」は、7400万アクセスを突破。6月には機能を強化し、「富士山の高さを教えて」と聞くと「私の知っている情報では、富士山の標高は3776メートルです」というように、自然な形で質問に回答する機能が盛り込まれるという。2011年の11月に試験サービスを開始した「通訳電話サービス」は、春からモニターを拡大。今秋の商用化を目指してサービスに磨きをかけている。
そしてワイヤレスジャパンの同社ブースで初披露されたのが「3Dライフコミュニケーション」(参考出展)。離れた場所にいる人同士が、同じ仮想3D空間を共有しながら交流できるようにするサービスで、タブレット端末の新たな用途と新感覚のコミュニケーション手法をアピールしている。
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2012年度の今後の取り組みとしては、8月にdマーケットのマルチデバイス対応を予定しており、spモードメールや電話帳などのマルチデバイス化についても「2012年度中にやっていきたい」と山田氏。2020年ビジョンとして掲げる「モバイルを軸とした総合サービス企業への進化」、その中期ビジョンとして目指す「スマートライフの実現」に向け、ネットワーククラウドをしっかりと磨いていきたいと意気込んだ。
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