無風だったフランスから日本は何を見いだすべきか電力自由化、先行国はこう動いた(1)(5/5 ページ)

» 2016年07月25日 09時00分 公開
[グザビエ・ピノン/セレクトラスマートジャパン]
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世界的なエネルギー価格の低下が及ぼすフランスへの影響

 2015年の初頭から2016年にかけて、世界的に電力の卸値は30%ほど下落した。冬場の高気温、高性能・省エネ製品の成長、不景気などがその主な理由である。また、天然ガス、原油、石炭の価格もここ数カ月で下落している。化石燃料による電力の値段も応じて安くなると考えられる。さらに再生可能エネルギー部門の急速に成長しているのが現在のエネルギー事情であるといえる。

 結果として、新規参入者(新電力)はEDFから規制価格(ARENH制度)での電気購入をストップするだろう。上記のような状況から、電力の卸売り市場からもっと安い電力を手に入れることができるようになることが予想されるからだ。電力卸売り市場の変動は小売り業界に大きな影響を及ぼすということが理解できる。以下にフランスの電力市場において起こる変化についてポイントを挙げておく。

  • 新規参入者(新電力)は数年前よりもかなり安く電気料金を提供できるようになっている
  • そのため、特に電力消費の多い家庭では今は電気契約の替え時といえる。数百ユーロは節約できる可能性がある
  • 結局現在EDF社は、ARENH制度による規制料金よりもかなり安い価格で市場で電気を卸さなくてはならなくなっている

フランスの経験から日本へ送るキーポイント

 フランスの状況を見る限り、電力市場自由化で料金に関して大きな変化を期待することはできないだろう。例えば、フランスでは、大きなトレンドとして、電気料金は毎年上がってきている。福島の原発事故以降、安全対策が厳しくなるなど、原子力の発電コストが増えてきていることや、発電コストの高い、再生可能エネルギーが増えていることがその理由である。

 このトレンドは産業界全体の動きに影響されているもので、電気の小売市場自由化がこの大きな流れに影響を与えることはほぼ不可能だと考えるのが妥当だ。それでは電力小売りの自由化がもたらすその効果どのようなものだろうか。現状では以下のようなポイントが挙げられるだろう。

  1. 経済の効率化
  2. カスタマーサービスの向上
  3. 選択肢が増える(消費者の信条や意向で電力会社を選ぶことができる)

 電力自由化が始まったばかりの日本ではあるが、電力自由化1年目で日本人の大多数が電力会社を切り替えるとは考えにくい。まずは新規参入者(新電力)は消費者の信頼を得るまでには時間がかかるだろうし、さらに消費者が「電力自由化」が何かをよく分かるのにも時間がかかるであろう。電力市場が成熟するのには数年、もしかしたら数十年かかるかもしれない。ただ、なかなか市場に目に見える動きがすぐに見えなかったとしても「電力の自由化が失敗であった」と考えるのは早急である。消費者がこの新しい変化になれるのにはとにかく時間が必要である。

連載「電力自由化、先行国はこう動いた」の目次

筆者プロフィル

グザビエ・ピノン(Xavier Pinon) セレクトラ(selectra)共同創業者・代表

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 パリ政治学院・コロンビア大学にて修士号。東京大学に留学経験を持つ。戦略コンサルタント業務に従事したのち、在学中に立ち上げた電気・ガス料金比較サービス会社セレクトラの業務に本格的に携わり、同社をヨーロッパ最大手に成長させる。現在フランスを中心に欧州7か国でサービスを展開、欧州での経験をもとに2016年5月に日本(セレクトラ・ジャパン:http://selectra.jp/)でのサービスを開始。


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