FIT制度の先にある「地域循環共生圏」とソーラーシェアリングの関係性ソーラーシェアリング入門(16)(2/2 ページ)

» 2019年06月28日 07時00分 公開
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適切な「資源循環」の実現が課題に

 それは、FIT導入後に拡大した大規模なメガソーラーも、陸上風力発電も、バイオマス発電も、農山漁村に立地したり、そこから供給される木材や畜産廃棄物などの自然資源でエネルギーを生み出したりしているものの、そのエネルギーの大半は都市部で利用されているという点です。つまり、この概念図にある「循環」が実現しておらず、農山漁村から都市への一方通行、あるいは大きく偏ったかたちになっているのが現状というわけです。

 このエネルギーの問題に対して、環境省と経済産業省は2019年4月に「地域循環共生圏の形成と分散型エネルギーシステムの構築に向けた連携チーム」を発足させ、共同で両者の構築に資する政策検討をスタートさせています。先ほどの図にもあったように、農山漁村と都市の各々の中核には、自立分散型社会の重要な構成要素として再生可能エネルギーが挙げられています。電気・熱・燃料のどのエネルギー利用でも再生可能エネルギーを拡大することが必要であり、まずは地域内での自給力を高め、その上で都市は周辺の農山漁村からエネルギー供給を受けることで、不足分を補完するというモデルになるでしょう。

 真っ先に取り組むべき再生可能エネルギー電気の供給では、現在の硬直化した送配電網利用の仕組みを柔軟化し、短距離の送電ほどコストが高くなる託送制度の見直しや、再生可能エネルギー導入のポテンシャルが大きい農山漁村における送配電網整備などの諸課題に、環境省と経済産業省、関係機関としての農林水産省が共同で取り組んでいくことが期待されます。そして、その中でソーラーシェアリングも重要なテーマになる可能性があります。

地域循環共生圏の実現につながるソーラーシェアリング

 先日、千葉エコ・エネルギーのソーラーシェアリング設備である千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機で、ニンニクの収穫祭を開催しました。昨年9月にも作付けのイベントを行い、その時に参加してくれた方々も含めて約40人の参加をいただきましたが、半数以上は東京都内からの参加者でした。再生可能エネルギー発電事業や関連業界に携わっていたり、農業者や研究者だったりと背景はさまざまですが、ソーラーシェアリングをきっかけに千葉の農村地域に足を運び、農作業を体験し、地域の農産物を食し買い求めるという行動を喚起することにつながりました。このソーラーシェアリングが生み出した風景というのは、地域循環共生圏が目指す農山漁村と都市の交流モデルなのではないでしょうか。

ソーラーシェアリングは都市から農村に人を呼び込むツールになる

 FIT制度によって国内の再生可能エネルギー導入量は増加したものの、地方に対して東京を始めとする都市資本が投資して開発した「植民地型開発」と呼ばれるプロジェクトが多く見られ、大規模な事業ほどその傾向が顕著です。これは、地方の特に農山漁村で地元に資本力や発電事業開発・運営のノウハウがないことも原因ですが、都市資本が入り込んで開発されたプロジェクトでは、運営期間中の地元への経済的メリットが非常に限定的となってしまいます。地域循環共生圏では、都市から農山漁村に対して「社会経済的な仕組みを通じた支援」や「地域ファンド等への投資」が例示されていますが、その対象は地元主導の事業である必要があります。農業と密接な関わりを持つソーラーシェアリングは、農産物の生産を支え、再生可能エネルギーの供給源となることで、食料とエネルギーの需要家となる都市の人々が現地に足を運ぶ理由を作り出し、結果としてその支援や投資の受け皿として大きな可能性を持っているのです。 

世代を超えて、再生可能エネルギーと農業のつながりを体験するフィールドへ

 地域循環共生圏の概念をひも解いていくと、ソーラーシェアリングが持つ都市と農山漁村の交流や自立分散型社会の実現に対する大きな意義が見えてきます。前回の記事で「ソーラーシェアリング2.0」へのシフトに言及しましたが、気候変動のような地球全体に関わる環境問題では、エネルギーも農業もあらゆる分野で同じ方向を向いて取り組む必要がある中で、多様な価値観をつなぐソーラーシェアリングの重要性はさらに増してくるでしょう。

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