回収率の低迷と漏洩が課題に――地球温暖化に影響するフロン類排出対策の現在法制度・規制(3/4 ページ)

» 2023年04月21日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

モントリオール議定書のキガリ改正

 従来、オゾン層保護を目的として特定フロンを排出抑制してきたモントリオール議定書であるが、2016年にキガリ改正が採択され、代替フロンHFCについても生産量・消費量の削減義務が課されることとなった。先進国の削減目標は図7のとおり、2019年:▲10%、2024年:▲40%、2029年:▲70%、2034年:▲80%、2036年:▲85%、である。

 これにより、日本は2018年にオゾン層保護法を改正し、国全体の代替フロン基準限度を決め、それを超えないように事業者に対して製造量・輸入量の割当を実施している。

図7.日本の代替フロン削減スケジュール(消費量) 出所:経済産業省

フロン類回収率の低迷

 フロン排出抑制法では、業務用冷凍空調機器(業務用エアコン、冷凍冷蔵ショーケース等)を対象として、フロン類の製造から使用、廃棄に至るライフサイクル全体の包括的な対策が講じられている。

 しかしながら、機器廃棄時のフロン類回収率は3〜4割程度に低迷しており、旧・地球温暖化対策計画で目標とされていた2020年回収率50%は未達成に終わり、2030年目標75%にも大きなギャップが残されている。回収されなかったフロン類は、大気に放出されており、温暖化の一因となっている。

図8.フロン類の廃棄時回収率の推移 出所:環境省

 経産省・環境省の共同調査によれば、フロン未回収分(6割強)のうち半分強は、そもそも機器廃棄時にフロン回収作業が行われなかったことに起因しており、特に建築物解体に伴う機器廃棄において、フロン回収作業が行われない場合が多いことが明らかとなった。

 このため2018年のフロン排出抑制法改正により、関係者が相互に確認・連携し、ユーザーによる機器の廃棄時のフロン類の回収が確実に行われる仕組みへと制度変更・強化された。この一例として、ユーザーがフロン回収を行わない違反に対する直接罰が導入された。

図9.フロン排出抑制法2018年改正の主な変更点 出所:環境省

機器使用時におけるフロン類の漏洩

 フロン類が大気に放出されるもう一つの原因が、機器使用時の漏洩(ろうえい)である。フロン排出抑制法では、業務用冷凍空調機器からのフロン類漏洩量が年間1,000t-CO2以上となる者に対して、算定したフロン類の漏洩量を国に報告することを義務付けている。もちろん、漏洩量を直接計測することはできないため、補充量により間接的に把握される。

 「フロン類算定漏えい量報告・公表制度」による2021年度フロン類算定漏洩量の合計値は、227万t-CO2であった。漏洩フロン類の平均GWPは近年上昇傾向が続いており、2021年度の平均GWPは2,504となっている。

 これはあくまで国に報告された漏洩量だけであり、実際には遥かに多くのフロン類が漏洩していると推測されている。2017年の経済産業省の調査では、業務用冷凍空調機器の使用時漏洩量は約2,100万t-CO2と推計されている。

 使用時における漏洩の主な要因は、機器内部の接合部や配管の接続部に起因するものと推察されており、機器での漏洩対策や漏洩の早期発見が重要である。フロン排出抑制法では、業務用冷凍空調機器の管理者に対して、機器の点検、点検記録等の保存等が義務付けられている。

図10.業務用冷凍空調機器からの全漏洩量(2017年)に占める使用時漏洩量の割合と機器別内訳 出所:フロン類等対策WG

 フロン類漏洩による温暖化の進行以外にも、より身近な問題として、既存機器に対して補充(サービス充填)するためのフロン類の不足が懸念されている。

 業務用冷凍空調機器の製品寿命は20〜30年程度と考えられるが、次世代冷媒は全ての現存機器には対応できるわけではないため、機器の更新や配管改造等が必要となる。

 他方、特定フロンであるHCFC(R22)はモントリオール議定書により、2020年に生産が終了しており、今後は「再生冷媒」(回収後に再生資源化処理された製品)のみが購入・使用可能である。また代替フロンHFC(R-404AやR-410A等)についても、モントリオール議定書キガリ改正に基づき、生産・消費量の大幅な削減が予定されている。

 このため、フロン類補充のランニングコストや設備更新費用の「経費節減」の観点からも、使用時漏洩を最小化することが求められる。また国においては、冷媒不足に伴う冷媒の価格高騰や入手困難等の社会的な混乱を防ぐため、適正な漏洩防止、回収・再生制度の運用が必要とされている。

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