水素供給コストにおいて、水素そのもののコストのほか、水素ステーションに関する費用が高いことも課題とされている。2021年度の補助事業の実績平均値として、水素ステーション整備費(設備費や工事費)は3.3億円であり、超高圧水素対応の蓄圧器や圧縮機が高額化の一因となっている。
また年間運営費3,100万円のうち、信頼性の低い機器の修繕費が半分程度を占めている。加えて、FCバスの充填が昼間に集中するため、機器の平均稼働率が低いことも高コストの一因となっている。
水素供給コストの将来見通しとして、水素調達コストは500円/kg、整備費は「2/3補助」、運営費は「補助なし」と仮定した場合、水素供給コストは表3のように試算された。
なお、大型FCトラックでは、既存水素ステーションの充填速度では30分程度もしくはそれ以上の時間が掛かるため、既存のトラック(ディーゼル)と比べて利便性が損なわれる。
充填時間の短縮策として、水素の大流量充填を行う場合、水素供給コストは上昇する。よって、一部の時間帯に水素充填が集中することを避けて「平準化」するために、車両の走行データ等の共同管理・活用が期待される。
先述のとおり、水素ステーション整備費用が高額化する理由の一つは、超高圧水素(70MPa)に対応する蓄圧器や圧縮機等が高額であることであった。
仮に、タンク圧力を70MPaから35MPaに低下させた場合、一定の前提の条件のもと、建設費や運営費は2割程度コストダウンできると試算されている。他方、タンク圧力の低下により、車両に搭載できるエネルギーは4割減少するため、航続距離も4割短くなってしまう。
実際に、欧州や中国ではすでに35MPaのFCバスやFCトラックが導入されており、中近距離用途では、国内でも導入の可能性がある。ただし、中近距離用途では、EVとの競合が一層強まるため、その需要については不透明である。
水素はエネルギー密度が低いため、ディーゼルから水素へ転換すると、必要なタンク容積が増加し、商用車として重要な積載量が減少してしまう。
大型トラックにおいては水素タンクの設置により、荷台スペースが1m程度減少することとなり、昨今の運転手不足等を考慮すると、全長規制の緩和についての検討が求められている。
大型トラックを含むFCVの普及のためには、バランスのよい水素ステーション等のインフラ整備が不可欠である。ただし、これはEV普及を目指した充電インフラ整備においても同様であり、今後、SS(サービスステーション)や高速道路SA・PA等の限られたスペースをめぐり、両者の競合や衝突も生じ得る。
両者の費用便益比較は、運輸部門・車両の比較だけに閉じることはなく、産業部門(鉄鋼や化学)や発電部門など、幅広い観点から検討することが求められる。
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