ウクライナ危機以降のJEPX市場価格高騰により、複数の小売電気事業者(新電力)が撤退等を行ったため、多くの需要家が無契約状態に陥るなど、大きな混乱が生じた。2022年1月以降、小売電気事業の休止・廃止・解散に至った新電力は83社に上る(2023年12月末時点)。
これを踏まえ、資源エネルギー庁事務局では、退出に至った小売事業者と小売事業者全体の調達傾向を比較調査した。具体的には、2022〜2023年の小売事業者全体及び同期間に退出した小売事業者(※事業継続の意思が認められる事業者)について、2020年度に提出のあった「供給計画」上で、1年後(2021年度)及び3年後(2023年度)にどのような調達計画を立てていたのかを分析した。
すると、小売事業者全体では、1年後の調達が10%未満である者は約4割、3年後の調達が10%未満である者は約5割であった。これに対して、退出した小売事業者では、1年後の調達が10%未満である者は約7割、3年後の調達が10%未満である者は約8割であり、退出した小売事業者は全体と比べ、調達先を事前に確保している割合が少ないことが確認された。
WGでは、小売事業者が需要家に対して安定・継続してkWhを供給できる事業環境の整備が必要であることについては合意が得られているものの、その手段としての事務局案のkWh確保義務の妥当性については、現時点、賛否両論がある。
論点の一つが、市場連動メニューなど多様な小売料金メニューとの関係性である。資源エネルギー庁が2023年に行ったアンケートによれば、市場価格と一部または完全に連動する料金メニューを提供していると回答した小売事業者は図2の通りである。
エネ庁では、事業者の判断で供給力確保義務の範囲が変わることは恣意性があり妥当ではないと考えており、スポット市場に過度に依存する小売事業者は、再び市場価格高騰が起きた際に料金の高騰や経営の不安定化により、需要家の混乱を招くリスクが否定できないとして、すべての小売事業者に一定割合スポット市場に頼らない電力を調達することを求める案としている。
大規模事業者(5億kWh以上)については、3年度前に想定需要の5割、1年度前に想定需要の7割の確保を求めたとしても、多様な料金メニューを工夫する余地は相応にあると考えられる。
ただし、小規模事業者は信用力の課題などもあり調達手段が限られるため、今後の中長期市場の状況などを見極め、料金メニュー設定への影響を慎重に判断した上で、義務水準を設定することとした。
2025年4〜6月四半期における電力先物の約定実績は、TOCOMで約18億kWh(前年同期比4.5倍)、EEXでは約375億kWh(前年同期比3.0倍)と急速に普及が進んでいる。
このため小売事業者からエネ庁に対して、電力先物取引契約を義務履行の手法として認めて欲しいという意見が寄せられている。
電力先物は現物の調達を伴わない金融商品であり、それ自体を供給力として評価することは難しく、これまでの「供給計画」においても先物取引は供給力として計上していない。
ただし、電力先物を現物取引と組み合わせることにより、価格を安定させた上での電力供給が可能になる点を踏まえ、義務の履行における電力先物の活用について、検討を継続することとした。
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