今後、小売電気事業者に対して新たに「量的な供給力(kWh)」の確保を求めるにあたり、小売電気事業者間の競争の公平性や、発電事業者と小売電気事業者の交渉力の対等性等にも十分に留意をしたうえで、中長期の供給力(kWh)の取引を円滑に行うことができる市場環境の整備が求められる。
小売事業者は現在も相対取引により中長期のkWhを調達することが可能であるが、透明性高く、電力価格指標の形成を図るため、幅広い事業者が簡便に取引に参加することが可能な「中長期取引市場」を新たに創設することとした。
新たな「中長期取引市場」では、流動性の確保及び価格指標性等の観点から、まずは定型的な商品を取り扱うこととする。小売電気事業者の多様な商品ニーズについては、相対取引により調達することが期待される。
また、小売事業者に課される供給力確保義務と整合性を取るため、市場開設から当分の間は、実需給の3年前と1年前に取引が行われる。
このとき、取引年度(商品が取引される年度)と受渡期間(契約に基づいて電力の受渡が行われる期間)の関係では、単年(1年間)商品又は複数年(例:3年間)商品のいずれにするかといった論点があるが、小売事業者の事業計画の柔軟性および与信リスクの観点から、当面、「単年商品」のみを扱うこととした。
また、中長期取引市場で取り扱う商品の負荷パターンとしては、以下のように対応する方針である。
なお、旧一般電気事業者が提供する中長期卸商品のうち、2024年度に公表・締結された商品の概要は表3の通りである。
中長期取引市場は、相対取引が困難な小規模事業者も簡便に調達することが可能であることが求められる。
そのためには、商品が一定量市場に供出されることが不可欠であり、少なくとも市場開設から当分の間は、制度的な措置により、一定規模以上の発電事業者に対して中長期取引市場への供出を求めることとした。具体的には、エリアの卸供給における支配的な地位等を鑑みたベースロード市場における考え方を参考に、保有する電源の最大出力の合計が「500万kW以上」の事業者が対象となる。
この基準に該当する事業者は、旧一般電気事業者(沖縄電力を除く)及び電源開発であり、これらの12社が有する供給力は、日本全体の総供給力の約7割を占めている。なお、これら12社以外の発電事業者も自由に売り入札に参加することが可能である。
先述のように、小規模(5億kWh未満)事業者の販売電力量の合計は、日本全体の3%程度である。仮に、すべての小規模事業者と一部の大規模事業者が中長期取引市場に参加したとしても十分賄える量として、全国販売電力量の「10%」に相当する約800億kWhを対象事業者に供出を求めることとした。各社への具体的な按分方法や供出方法は今後の検討である。
小売事業者に対して、中長期的かつ量的な供給力の確保を求める目的の一つは、発電事業者による電源投資や燃料調達に係る予見性を高めることにある。
このため、中長期取引市場を通じて形成される電力価格指標についても、現行のスポット市場における短期限界費用(燃料費等)をベースとした入札価格とは異なり、電源の投資や維持に要するコストや価値を考慮することが求められる。
また、中長期の相対取引においては、一般的に、電源の固定費と可変費を含む形で価格設定が行われている。中長期取引市場で取り扱われる商品の価値は、中長期相対取引で取り扱われる価値と同等のものであるため、中長期取引市場の価格は、中長期相対取引と同様に、電源の固定費と可変費を含む形で設定することが基本となる。
ただし現在、kW価値及びその対価は容量市場を通じて回収されているため、固定費の二重回収を避けるための調整を行う予定である。
固定費と可変費を含む価格設定が行われる場合、スポット市場で採用されているシングルプライス方式は適切ではないことや、取引タイミングに制約が少なく、売り手と買い手の条件がマッチング次第、順次約定していく「ザラバ方式」の採用が望ましいとされた。なお、現在のJEPX時間前市場や先渡市場は、ザラバ方式が採用されている。
燃調のような事後調整付商品を取り扱うか否かについては、事業者ニーズ等を踏まえて検討を行う予定としている。
なお、中長期取引市場の創設によって、ベースロード市場はその目的・役割を代替できると考えられるため、取引の分散を避ける観点からも、ベースロード市場を終了することとした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
人気記事トップ10