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MS、社員のiPhone利用料を経費と認めないことに――実は深遠な戦略?

» 2009年06月19日 07時00分 公開
[Don Reisinger,eWEEK]
eWEEK

 米Microsoftは従業員がBlackBerryやiPhone、Androidベースの携帯端末を使用する場合の料金を負担しないことにしたようだ。

 このニュースを最初に報じたのはSilicon Alley Insiderだ。Silicon Alley Insiderは、Microsoftが今年に入り従業員の削減に踏み切ったのち、従業員向けの各種のサービスも打ち切ったとの情報を入手したという。記事によると、「Microsoftは今後、Apple iPhoneのデータ通信プランを利用している従業員については、たとえ業務用に使っている場合であれ、通信料金を負担しない」という。さらにこの記事によると、Microsoftは「Windows Mobile搭載スマートフォンのデータ通信プランについてのみ、料金を負担する方針」という。

 Microsoftの広報担当者はこの記事の内容を認め、Silicon Alley Insiderに対し、「実際、当社では経費の支払いをWindows Mobile端末に限定している」と語ったという。さらにこの広報担当者によると、「この方針は、今年に入って発表した広範なコスト削減策の一環として実施されたもの」という。

 例によって、このニュースは一気にWeb中に広まった。なかには、「大したことではない」という感想もあった。「コスト削減のために従業員の携帯料金の支払いを打ち切っている企業は既にたくさんあるのだから」という意見だ。コストの面では、確かに単純な理屈だ。だが、なかには、このニュースに批判的な声もあった。

 Microsoftの決定については実質すべてに対して批判的という向きがいるが、今回、そうした向きは、「Microsoftは従業員の自由を奪い、またしても優位な立場を乱用して主要な競合相手を締め出そうとしている」と指摘している。いかにもMicrosoftがやりそうなこと、というわけだ。

 真実はこうだ。実際のところ、Microsoftにとって、こうしたデータ通信料金の支払いをやめるのは理にかなったことなのだ。それは何も、AppleやGoogle、RIM(Research In Motion)、Symbianに対する、いわゆる敵対心からではない。Microsoftはただ単に「毎月従業員に支払わなければならない不要な出費」をできる限り抑えたいと望んでいるにすぎない。

 Microsoftも昨今の景気低迷に苦しんでいるのだ。確かに、同社は依然として四半期ごとに多額の売上高を計上している。だが、利益は10億ドル以上落ち込んでいる。そして同社は今年に入り、創業以来初めて、従業員のレイオフを余儀なくされた。成功を維持できるだけの十分な業績を上げている企業であれば、そんなことはしないだろう。つまりMicrosoftは、さらなる出血を食い止めるべく、今後、携帯電話料金は負担しないとの方針を決定したのだ。

 恐らく一部には、「もしMicrosoftに何ら不純な動機がないのなら、なぜWindows Mobile端末の料金だけは今後も支払うのだろうか」と疑問に思う向きもいるだろう。もっともな疑問だ。だが、そうした(Windows Mobile端末の料金も払わない)場合を想像してみてほしい。記事の見出しは「Microsoftが従業員の経費を切り詰め」というものから、「Microsoft幹部は自社のプラットフォームに背を向けた」というものに変わってしまうだろう。そうなれば、アンチMicrosoftは大はしゃぎだ。そしてMicrosoftの広報担当者は、「なぜもっと差し迫った問題に取り組まずに、けちな措置ばかり講じているのか」といった疑問に答えなければならないだろう。

会社への忠誠心が上がる?

 このニュースにはもう1つ、あまり注目されていないが重要なポイントがある。それは、会社への忠誠心だ。「Windows Mobile端末を使用しない従業員には携帯料金を支払わない」というMicrosoftの決定には何ら悪意はないのだろうが、わたしが思うに、この方針は同社にとってプラスにつなげられるかもしれない。自分が勤務する会社を支援するというのは、いいものだ。従業員の士気の低下は、どの企業にも共通する重要な問題だ。企業は常に、従業員の満足度を高めるよう努めている。満足度が高ければ、従業員は会社が自分に与えてくれるのを待つよりも、自分の方からより多くを会社に注ぐようになるはずだからだ。それがビジネスの基本だ。

 そこでだが、Microsoftが今後BlackBerry端末やiPhoneの通信料金は支払わないと決めたことで、目には見えないラインが引かれたことになる。つまり、Microsoftの従業員は果たして、「会社を支援すべく、Windows Mobile端末を使う方」を選ぶのか、それとも「雇い主のことなど気にかけずにiPhoneを買う方」を選ぶのだろうか。他社を支援しようという従業員に対し、雇い主はお金を支払おうとはしないだろう。だが雇い主を支援しようという従業員には、雇い主も恩返しをしてくれるはずだ。

 これは興味深い戦略だ。もっともMicrosoftはそれを認めないだろうけれども。でも実際、このやり方は実に理にかなっている。何しろ、Microsoftはモバイル分野でできる限り多くの支持者を必要としている。もし自社の従業員がWindows Mobile技術を使うようになれば、彼らは技術の改良(開発チームの一員であれば)や販売促進にも、より積極的に取り組んでくれるようになるだろう。つまりMicrosoftにとっては、マーケティングと製品開発のための自前の武器が新たに加わることになる。

 競合端末の通信料金を支払わないというMicrosoftの決定が、こうした影響を意図した上でのものなのか、そうでないのかは分からない。いずれにせよ、今回Microsoftが実は結構意味のある決定を下したからといって、われわれが躍起になって非難するようなことではない。

 とにかくMicrosoftがやらなければならないのは、Windows Mobileを徹底的に改良し、ちゃんとした製品に仕上げることだ。まさか、それが難しすぎるってことはないだろう?

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