ネット動画をマーケティングに活用しようと考えたときに、単なる動画配信インフラだと考えると失敗する。ニコニコ動画はユーザーが生活の一定時間を送る場であり、その生活圏を理解することが、本当の活用につながるとニワンゴ社長は話す。
「ニコニコ動画をメディアと考えるよりも、生活圏があってそこにメディアがある」
6月25日、東京・秋葉原で行われた「ビジネス動画活用セミナー」にて、ニワンゴの杉本誠司社長が強調したのが“生活圏”という言葉だ。メディアではなく、ネットユーザーが棲息し多くの時間を過ごす生活圏だと捉える。そしてその上にメディア機能があると考えることが、動画を使ったマーケティングでは重要だと話す。
杉本氏の考えは、ニコニコ動画は動画配信インフラではなくコンテンツを共有し、ネットでのムーブメントを作り出すものだ、というもの。「(ニコニコ動画を)1つの視聴者にリーチするメディアと考えてしまうと、それで終わってしまう」
生活圏を理解することで、動画を配信する単なるメディアとしての使い方ではなく、コンテンツを共有する、ネットでのムーブメントを作るきっかけにニコニコ動画を使える。「ネットのユーザーが生活の一定時間を送るということの原理原則を考えると、配信する、共有する動画の質が変わってくる。言葉の使い方も変わってくる」(杉本氏)
生活圏に合わせて動画を作り、コミュニケーションの質を変化させていく。これは独特な濃いユーザーのコミュニティを持つニコニコ動画ならではとも言えるし、また最も日本のネット的だとも言える。同セミナーでプレゼンしたYouTubeが、「TVのクリエイティブがネットに向かないわけではない」(グーグルのYouTube営業部長の牧野友衛氏)と話すのとは対象的だ。
配信インフラではなく、生活圏。その観点から、杉本氏はネットでの動画プロモーションを成功させるための10のポイントを挙げた。
動画を使ったプロモーションでしばしば議論になるのは、動画のクオリティをどのレベルにするかだ。素人っぽいほうが良いのか、テレビの番組のように作り込むべきなのか。杉本氏は2極がよくて中途半端はよくないと話す。「1つには未完成であることが重要。その突っ込みどころが話題になる。伝播していく。もう1つはクオリティが非常に高く素人離れしていれば、神と崇められて伝播していく」。いずれにしても、クオリティ自体ではなく、それが話題の提供になっているかが重要だという。
「(ニコニコ動画は)画面の上に文字があって邪魔だよね、と考えてはいけなくて、それには役割がある」と杉本氏。ここにも動画の配信ではなく、動画を軸にしてコメントのやりとりが発生するという共有、情報交換にニコニコ動画の価値があるという考えだ。
CGM型サービスでマーケティング活動を行う際に、だれもが気にするのが炎上。その懸念への杉本氏の回答は「生活空間を知ることが重要。すると想定外のことは起きなくなる」というものだ。
同じく炎上したからといって失敗ではなく、話題になったこと自体が成功の一歩だと考える。「ネガティブでも興味を示してくれている。ネガティブをポジティブに変えていく施策を考える。完全にスルーされているのは手立てがない」
炎上に至る原因の1つは、ユーザーの期待と提供するものにズレが生じていること。「和食だと思ったのに洋食が出てきた」(杉本氏)のが原因だ。「だいたいの場合は説明不足が原因。理由をきっちり説明すると理解を示すユーザーが出てくる。つまりファンがつく」
生活圏の理解とは、そこでユーザーが起こす行動を理解できているかどうかということを指す。「ユーザーの行動を理解できない——という状況はよくない。(成功例である)AKB48のユーザー派生動画も、こういう動画を作られるとイメージ壊れる、とは考えない。ユーザーは(AKB48が)好きだからそういう動画を作っている。ポジティブに考えてほしい」
炎上してもネガティブな反応が返ってきても、それを第一歩と捉えて次の手を打つ。ネットの生活圏にいるユーザーを理解しようと努力し、コミュニケーションを止めない。そのサイクルを速めていろいろやることが大事だと説く。「ネットのいいところは時間軸が短いこと。よくなかったら、すいません、あんまりよくなかったのでやり直します、というと受け入れられます。繰り返しやっていくことを怠らない。あとはスピードが重要。投入して2週間たつとアクセス数は減っていく。次の刺激を投入しないと持たない」
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