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» 2009年09月07日 17時59分 UPDATE

樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」:アフリカで酋長になって名前を覚えてもらう方法

三井物産の入社式で社長が「自分の名前を覚えてもらえ」と話した。筆者は酋長になることで、名前を覚えてもらったのだ。

[樋口健夫,Business Media 誠]

 1971年に入社した三井物産の入社式で、当時の若杉末雪(わかすぎ・すえゆき、故人)社長が「商社マンにとって大切なことの1つに、自分の名前を覚えてもらうことだ」と話したのを覚えている。筆者は最前列の真ん中に座って、社長の訓話を聞いていたが、そんなものかなと思っていた。

 入社後、どこでもいいから海外に出たいと訴え続けて、3年目にアフリカ・ナイジェリアのラゴスに駐在することになった。何人もの同僚たちがラゴス駐在を断ったらしいが、筆者にとってアフリカは子供の時からの夢の大陸だった。

課長 ラゴス転勤の話があるんだが、どうだ?

筆者 行きます。受けます!

課長 あのね、こんな大切なことは、奥さん(前年に結婚済み)と相談するんだよ……。

筆者 いや、大丈夫です。電話で了承を取ります。

課長 慌てなくてもいいから。明日返事をするように。今晩ゆっくりと相談することだね。

st_yoruba01.jpg ラゴスの様子

 アフリカ勤務が決まって、長男が生まれた直後に赴任。数カ月後にヨメサンが長男を連れてやってきた。ラゴスは信じられないほど暑くて、マラリアやコレラなども日常茶飯事だったが、仕事はたくさんあって面白かった。何と言っても所長と所長代理と筆者の3家族はすごく仲が良かったからだ。

 ある日、所長に呼ばれた。「樋口君、当事務所は緊急時の脱出用に、クルーザーを1隻購入することにした。アメリカ製のでかいクルーザーを注文してほしい」「ク、クルーザーですか。どのくらいのものを?」「2〜3千万円程度だ」「ええっ、そんなにデカイのですか」「そうだ。家族と工事部隊が全員乗れる大きさだよ」「普段、緊急事態以外の時は、このクルーザーをどうするのですか」「クルーザーは使わないで腐らせていけないから、週末ごとに東の島の保養所に家族で出かけることにしよう。クルーザーを入手したら、運転手を雇うこと。君がその保養所を建設するのさ。まず、その地域の大酋長(王様と呼ばれていた)から土地の借用の許可を取得してほしい」

 こうして筆者はクルーザーを発注し、購入し、運転手を雇い(船長は筆者!)、大酋長を数回訪問し、保養所の建設のための島の土地の借用を了承取り付け、建設資材を発注し、現場の監督をして、井戸を掘らせて真水を得て、波止場も作った。

 できあがった保養所はその島で一番大きかった。大西洋で水浴びしたり、内海で水上スキーをした後は、ビールを飲んで昼寝をしていれば、東京の本社では想像できない極楽世界。毎週末、家族や関係者と緊急時の訓練と称して、クルーザーの試運転をしていたら、大酋長の息子たち4人がやってきて、「ミスター樋口、あなたは、この村で一番大きな家を建てた。この村の名誉酋長(Chief)になってはどうだろうか」という。

 早速本社の仕事の同僚に尋ねたら、「物産広しといえども、本物の酋長はいないぞ。なれ、面白いからなれ」という。もちろん就任を了承した。就任式の日に、筆者とヨメサン(と長男3歳)は、ヨルバ族(ナイジェリアの南西部の有力部族名)の正装を着用。細長いボートで大酋長の村まで出かけたものだ。

 大酋長は「ナイジェリアと日本のためにがんばれ」と、筆者を酋長に任命した後、おそろいの服を見て「面倒だから、奥さんも息子さんも、ついでに酋長じゃ」と、3人とも酋長になった。

st_yoruba02.jpgst_yoruba03.jpg 就任式に臨む筆者とカミサン(左)、大酋長の“洗礼”を受けた

 筆者から大酋長への貢ぎ物は、ウイスキービール。ヨメサンが横にいるのに、王子の1人が「ミスター樋口、わたしの嫁さんを一人、譲ってやろうか」とささやく。もちろん辞退した。

 筆者は、“チーフ・ヒグチ・バログン・オブ・イシャハイ”というタイトルを貰った。イシャハイという地域の常勝将軍という意味である。これがナイジェリアのローカルの新聞に出た。おかげで筆者は客先で、ずいぶん親しく話ができるようになった。

 この酋長就任のことを、物産の本社の広報室が聞いて、体験記を書いて欲しいと要請を受けた。そして、初めてのエッセイを書いたのだ。

 酋長就任式の体験記の記事が掲載された広報誌が出た時、社員の誰もが「当社にはアフリカの酋長がいる」と大笑いしたという。これで、入社した時に若杉社長が言っていた社員のみんなに一気に名前を覚えてもらえた。入社5年後だった。若杉社長の言葉の意味も身に染みて分かったのも、このときだった。

今回の教訓

 ついて行くと酋長になれる――かも。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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