検索
連載

「残業は減らせない」のウソ朝シフト仕事術

残業が恒常化してくると、残業することが当たり前になってしまいがち。ところが本当に残業は減らせないのでしょうか。いくつかの資料をもとに解説します。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 2007年6月6日の『日刊工業新聞』の連載「リスク管理:都市化と長時間通勤」には、長時間勤務のリスクが紹介されています。以下は、その抜粋です。

  • 長時間勤務と日本特有の長時間労働で、働く女性に家事や育児の労働の負担が重くのしかかり、少子化や家庭崩壊を生むリスクがある。
  • また、「夕食」ならぬ「夜食」しか食べられない男性をもつ家庭では、夫婦のすれ違いによる不和や離婚のリスクがある。
  • 国土交通省の大都市交通センサスによると、東京圏では片道90分以上を要する通勤・通学者の割合は20%近い。NHK国民生活時間調査を見ても、東京圏は地方圏よりも平均30分程度長い。
  • 週に50時間以上労働する割合は、フランス5.7%、スウェーデン1.9%など、ヨーロッパ諸国が5%前後に止まっているのに対して、日本では28.1%(国際労働機関の国際比較調査2004年)。
  • 午後6時までに帰宅している男性の割合はスウェーデンの70.9%に対して日本では6.8%。午後8時以降の帰宅が6割以上(2005年内閣府調査結果)。
  • 都市の外延化傾向は変わらないが、新線の開通、相互乗り入れなどにより、通勤の長時間化には歯止めが出てきた。また、フレックス制などの採用により、空いた時間での通勤が可能になっている。
  • 往復の通勤時間を労働持間に充当できる環境(走るビジネス列車など)の提供が望まれるとともに、企業も裁量労働制の導入などを行い、長時間通勤と生活の調和を図り、豊かな家庭生活を再構築する努力や工夫を支援すべきだろう。

 どうも、長時間勤務にはあまりよいことがなさそうです。「午後6時までに帰宅している男性は7割」というスウェーデンの家庭環境は、日本とはまったく違う状況なのでしょうね。うらやましいかぎりです。

 長時間労働と長時間勤務は、社会全体で見ると大きなリスクであること、豊かな家庭環境の構築が企業の競争力向上につながることは、徐々に社会的なコンセンサスとなって広がりつつあります。

残業は減らせないわけではない

 実は、日本企業の残業は、減らそうと思えば減らせる可能性を裏づけるデータがあります。

 2008年2月22日〜24日、gooリサーチが「残業と仕事の効率化に関する意識調査」という調査を実施しています(全国20歳以上のビジネスパーソン1080人の回答。20〜29歳24.5%、30〜39歳24.9%、40〜49歳25.3%、50歳以上25.3%。男性68.2%、女性31.7%)。

 その結果を見てみましょう。まずは個人が考える「残業が減らない理由」のランキングから。1位が「仕事が終わらなければ残業すればよい」(64%)、2位が「自分だけ早く帰るのは後ろめたい」(47%)、3位が「残業するのは当たり前」(42%)となっています。


(図1)残業が減らない理由は、個人がどのような考えを持っているからだと思うか(n=766)

(図2)残業が減らない理由は、企業側がどのような考えを持っているからだと思うか(n=1025)

(図3)仕事を効率化するために会社にあるツールをどのように活用しているか(n=1080)

 質問のしかたの問題かもしれませんが、この結果からは、「残業は○○の理由で必要だから、減らせない」という論理的な回答を見つけることはできません。強いていえば「生活給の一部なのだから、残業できないと困る」(36%)が該当しますが、これも残業が減らせない説明になっていません。「残業をゼロにするのは無理に決まっている」(34%)に至っては理由にすらなっていません。

 図2は、企業が考えるであろう「残業が減らない理由」のランキング。1位の「社員が残業をするのは当たり前」(48%)、2位の「就業時間だけ働くようなことしていたら競争に勝てない」(46%)、3位の「残業を減らそうとしていない」(42%)という結果からは、残業はあって当たり前のもので、そもそも減らそうと考えていない企業の姿勢が見えてきます。

 その姿勢は、次の調査からも見てとれます。図3は、「仕事を効率化するために会社のツールをどのように活用しているか」を聞いた結果です。それによって残業時間を減らそうという意図が隠されています。

 1位の「特に何もしていない」という回答が66%もあって突出しています。「やっぱり残業を減らそうなんて誰も本気で思っていないのではないか」という声が聞こえてきそうですが、ここで考えてみてください。「特に何もしていない」のが現状ならば、「何か対策を打てば、残業を減らせる可能性が大きい」ということの裏返しでもあるのです。

 企業には残業を減らす大きな余地がある。そう前向きにとらえるだけで、違った景色が見えてくるはずです。残業は本気で減らそうと思えば、減らせます。

 先ほど紹介したように、会社人生を通じて残業ばかりしてきた私は、現在はほぼ毎日、午後5時から6時には退社しています。夕食は毎晩家族と一緒に食べていますし、平日でもプライベートやライフワークは充実しています。

 なぜ、こんなことが可能なのでしょうか? それは、朝30分の仕事は、夜3時間の残業に匹敵する生産性があることを発見したからです。夜遅くまで残業するよりも、朝早く起きて集中力の高い時間を上手に活用したほうが、ずっと効率的に仕事をこなせるのです。

 朝シフトによって残業がなくなれば、夜、家族と一緒に過ごすこともできますし、共働き家庭では夫婦交替で保育園に迎えに行くこともできます。朝シフトは仕事だけでなく、プライベートやライフワークにもよい影響を与えるのです。

連載「朝シフト仕事術」について

 本連載は7月16日発売の書籍『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』から抜粋したもの。“朝活”が大ブームの今、医者、起業家、脳科学者が書く朝活の本も売れているが、本書は日本IBMに勤務する現役ビジネスパーソンが現在進行形で朝時間を有効活用していることが特徴だ。その成果・効果を大公開。実体験を元に、朝は夜の6倍生産性があがる理由を分析した。

 著者自身も20代30代のころは、仕事の忙しさが残業に反映されていると思い込み、“残業自慢者”でもあった。しかし、残業 → ストレス → 飲む → 寝坊 → 満員電車 → ぎりぎり出社 → 仕事の山という負のサイクルにどっぷりとはまっていたことに気づく。それをきっかけに、時間の使い方、仕事のやり方を研究しはじめ、朝時間にシフト。家族と過ごす時間、自分のための時間が増え、ライフワークをしっかりと楽しんでいる。そんな朝時間の有効性を共有する「朝カフェ次世代研究会」を主宰し、朝時間仲間をどんどん増やし、仕事とプライベートを充実させる啓蒙書。生活を見直したいと考えるビジネスパーソンにおすすめの1冊だ。



著者紹介 永井孝尚(ながい・たかひさ)

 日本IBMソフトウエア事業部マーケティング・マネージャー。1984年3月、慶應義塾大学工学部卒業後、日本IBM入社。製品開発マネージャーを担当した後、現在、同社ソフトウエア事業部で事業戦略を担当。2002 年には社会人大学院の多摩大学大学院経営情報研究科を修了。朝時間を活用することで、多忙な事業戦略マーケティング・マネージャーとして大きな成果を挙げる。一方で、ビジネス書籍の執筆や出版、早朝勉強会「朝カフェ次世代研究会」の主宰、毎日のブログ執筆でさまざまな情報を発信。さらに写真の個展開催、合唱団の事務局長として演奏会を開催するなど、アート分野でも幅広いライフワークを実現している。主な著書に『バリュープロポジション戦略50の作法 - 顧客中心主義を徹底し、本当のご満足を提供するために』などがある。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る