「専門性と利便性でAmazonと競う」――HMVが4年6カ月ぶりにECサイト刷新

ECサイトで順調な売り上げを出してきたHMVジャパンが、4年6カ月ぶりにサイトを刷新した。アーティストや楽団などの詳細な情報を届ける専門性と、誰もがサイトから簡単に情報を手に入れられる利便性を武器に、Amazonや楽天との差別化を図る同社のEC戦略を聞いた。

» 2009年12月25日 08時00分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 CDの売り上げが低迷する中、レコード会社にとってインターネットを使った販売促進策の実施は避けては通れないものになっている。その1つが独自のEC(電子商取引)サイトの構築だ。HMVジャパンは運営するECサイト「HMV ONLINE」を4月に全面刷新した。サイト構造の見直しを含む大幅なリニューアルは4年6カ月ぶりである。

 HMV ONLINEによる売り上げは同社全体の3分の1を占めるまでに成長し、ECによる売り上げは年間25%増と右肩上がりだった。一定の成功を収めていたHMV ONLINEのさらなるテコ入れに乗り出した目的は、音楽に詳しい利用者に加え、ECサイト上の膨大な情報量から必要なコンテンツを探し出せない新規ユーザーの双方を取り込むことだった。


 「コアな利用者に質の高い情報を提供しながら、新規のユーザーを増やしたかった」。HMVジャパン EC事業本部の新美朋子EC企画部長は、HMV ONLINEのリニューアルの背景をこう説明する。

 HMV ONLINEの利用者の多くは音楽に詳しく、店舗でもCDを購入する層だった。音楽の知識が深い人は、具体的な単語から商品を検索したり、トップページのカテゴリーから欲しい情報を見つけ出したりできる。だが、音楽に詳しくない人にとって、細かく分かれた音楽のジャンルや膨大なアーティスト情報から求めている情報を見つけ出すのは難しかった。

Myページ Myページ

 そこで同社が目指したのは「パーソナライズド・ポータルサイト」というコンセプトだ。利用者の嗜好に合わせた情報を提供することを狙いとし、「Myページ」と呼ぶ機能を提供した。登録したアーティストのニュースやキャンペーン情報、リリース情報などを1画面上で確認できる。刷新前のサイトでは、ジャンルをクリックして下のページの階層にドリルダウンしないと、情報が得られなかった。「iGoogle」(新美氏)をヒントに専用ページを提供することで、この課題を克服した。

 サイトのレイアウト自体にも工夫を凝らした。具体的には「1画面上にどれだけ情報を詰め込めるか」(新美氏)を追求して、トップページの情報量を少なくした。刷新前はあらゆる情報を掲載していたため、ページの下部にあるコンテンツはクリックされにくかった。ランキングの拡充、レコメンドエンジンの導入で情報の検索性を向上させたことで、トップページのコンテンツ量を減らした。トップページ全体の長さは刷新前の半分になった。

 「ECサイトでは情報過多は避けられない。商品を検索エンジン以外からも探し出せるようにした」と新美氏。Q&Aサイト「教えて!HMV」や音楽商品にタグを付けられる「HMVタグタイル」といった利用者参加型の機能も新たに追加し、情報を探す負担の削減に注力している。

 一方で、HMVがこれまでつかんできた専門性の高い利用者も逃がさない。音楽に詳しい専門のスタッフが日々のニュースを執筆したり、楽団や指揮者の名前からも情報を探せるリンク集など、玄人向けの機能もそろえた。「ECサイトとしてAmazon楽天とも競いたい。“専門性”のあるコンテンツで差別化する」(新美氏)

 「単純に商品を手に入れたいだけなら、楽天やAmazonで構わない。だがHMVでは商品にひも付くニュースなども幅広く見せたい。ECサイト運営のノウハウと(HMVが培ってきた)小売の勘を駆使して、HMVのあらゆる情報をHMV ONLINEで提供したい」と新美氏は力を込めた。

image HMVジャパン EC事業本部 EC企画部長の新美朋子氏

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