コミュニティークラウドが進める東北復興と地域活性化クラウド ビフォア・アフター

データの収集や蓄積、情報共有が容易なコミュニティークラウドを活用して、農業や水産、観光の分野を活性化させる。

» 2011年09月30日 13時25分 公開
[林雅之,ITmedia]

 農業や水産業は、経営規模が小さくICT(情報通信技術)投資余力も少ない。これらの分野の効率化と活性化を見込めるコミュニティークラウド――同目的団体間で共同運用されるクラウドの活用が産官学主体で進められている。

期待が高まるコミュニティークラウド

 調査会社IDC Japanは2011年9月12日、「国内プライベートクラウド市場予測」を発表した。2010年の国内プライベートクラウド市場規模は1646億円であり、2015年の市場規模は2010年比5.7倍の9406億円と予測している。また、国内プライベートクラウド市場は、コミュニティークラウドが最も高い成長を遂げると見込んでいる。

 コミュニティークラウドとは、共通の目的を持つ特定企業間によって共同運用されるサービスのこと。産業特化型のソリューションとして、今後の成長が期待されている。公共分野では、自治体クラウド、教育クラウド、医療クラウド、農業クラウドなどが挙げられる。IDCは、2014年以降スマートシティのような社会インフラ事業者や異業種連携の業際クラウドが、大きく成長すると予測している。

 震災以降、社会インフラとしてのコミュニティークラウドへの期待が高まっており、クラウドにとっては、その優位性を訴求する機会にもなっている。震災復興は、国内クラウド市場の中長期的な成長を加速させることになるだろう。

「ジャパン・クラウド・コンソーシアム(JCC)」の取り組み

 地方でのクラウド活用に向けた、産官学の検討も進んでいる。2010年12月、クラウドの普及を産学官が連携し総合力を発揮して推進していくために、日本経団連を中心となってクラウド事業者などが参画する民間団体「ジャパン・クラウド・コンソーシアム」(総務省、経済産業省がオブザーバとして参画)が設立された。

 コンソーシアムには2011年9月末現在で300を超える企業が参画し、クラウドの普及促進に向けた検討を進めている。さまざまな取組みの情報共有や新たな課題の抽出、具体的なサービスモデルの検討などを行うために、2011年9月30日現在、以下の8つのワーキンググループ(WG)を設置している。

  1. クラウドマイグレーション検討WG
  2. 業務連携クラウド検討WG
  3. 教育クラウドWG
  4. 次世代クラウドサービス検討WG
  5. 農業クラウドWG
  6. 健康・医療クラウドWG
  7. 観光クラウド検討WG
  8. 水産業クラウド検討WG

 教育、健康・医療、観光、水産業といった地方における公共分野と関連性の高いワーキンググループが多くを占めている。これらの分野のクラウド化は民間企業単独で実現させることが難しいため、産官学の連携による強力なクラウド利用推進による、地域の利便性を高めるコミュニティークラウド創設への期待が高まる。

 ここで、農業、観光、水産業におけるクラウド活用について整理をする。

農業クラウド

 今回の震災、そして福島第一原発の事故による被災や風評被害などの影響で、東北の農業は深刻な状況になっている。農業は地域における基幹産業でありながらも、従事者の多くが個人であり、他産業と比べると経営規模が小さく、ICT投資余力が単体では少ない。そのため、全国的にも農業におけるICTやクラウドの活用はいまだ限定的である。

 また、農業従事者は高齢化が進み、ノウハウの継承が重要な問題である。センサーネットワークやクラウドを活用すれば、データの収集と蓄積、情報共有が容易になり、農業の効率を高めることができる。そして、新たに農業に加わる事業者はこれらのデータを活用できるので、容易に参入できるようになる。

 今後は自治体と地域の農業関係者とICT業界が連携し、農業分野におけるICT活用の促進を進めていく必要がある。農業クラウドによる持続的農業経営、地方展開可能なモデルの構築、そして地域振興を支援する仕組みづくりが求められている。

観光クラウド

 ジャパン・クラウド・コンソーシアムは、2011年7月20日の第2回総会で、新たに観光クラウド検討WGと水産業クラウド検討WGの2つを設置した。

 観光クラウド検討WGは、外国人観光客向けの多言語案内の絶対的な不足、個別サービス提供の経済的な困難性、震災後の風評被害などを課題であると認識しており、多様な観光コンテンツを1度の登録処理で多くのプラットフォームやサービス事業者に配信する仕組み作りなどを検討している。

 これらのサービス提供を通じて外国人観光客の訪問数を増加させ、地域活性化につなげていくことが期待される。

水産業クラウド

 水産業クラウド検討WGでは、ICTやクラウドを活用した安心・安全な「水産物」の流通と提供の仕組みを構築し、日本の水産業の高収益化、ブランド競争力の向上につなげていくことを目標としている。

 日本の水産業は農業と同様に個人経営に依存する部分が多いため、ICTやクラウドを活用して効率化や経営の見える化を進めていくことが、今後の発展においても重要と考えられる。


 地域型の産業では、ICTやクラウドの活用が現状遅れている。これらの導入を産官学が一体となって政策的に推進することで、利便性や事業価値が高まり、新しいビジネスの創造や地域経済・産業の発展へとつながるだろう。

著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)

 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)

ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点

2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。

国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究

一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) 総合アドバイザー(2011年7月〜)。

著書『「クラウド・ビジネス」入門


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