彼女を口説くために英語を必死に勉強する挑戦者たちの履歴書(81)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、ジュニパーネットワークス社長の細井洋一氏の大学卒業までを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2011年02月02日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 1977年3月に慶応大学法学部を卒業後、細井氏は米国留学へ旅立つ。

 まずは英語力を磨くために、米国バーモント州にあるSchool for International Training(SIT)の語学留学コースに通うことになった。田舎の山中にあるキャンパスで13週間、世界中から集まった留学生たちとともに英語の勉強に励んだ。周りに日本人はほとんどおらず、英語を使わないことにはまったく生活が成り立たない。そんな環境に身を置いた結果、2カ月後にはもう英語で夢を見るほどになっていたという。

 これはもちろん、まじめに英語の勉強に取り組んだ成果でもあろうが、それ以上に当時の細井氏にとって、英語に必死に取り組まざるを得ない重要な出来事があったのだ。

 その出来事のキーワードとなるのが、「コロンビア」だ。本連載を継続して読んでいただいている方なら、第78回で紹介したエピソードのことを覚えているだろう。細井氏が高校1年生のとき、大阪万博でコロンビアのパビリオンを訪れた際の話だ。細井氏はそこで初めて南米の文化に触れ、生まれて初めて国際感覚というものを肌で感じたという。

 それから約7年が経ち、初めて異国の地を踏んだ細井氏。そこで、ある女性との出会いを果たす。同じSITの語学留学コースに通っていた彼女が羽織っていたストールの絵柄に、細井氏はどこかで見覚えがあった。「どこで見たんだっけか……。あっ、そうだ!」。かつて少年時代、大阪万博のコロンビア館で見たポンチョの柄と同じだったのだ。その女性は、コロンビアから来た留学生だったのだ。

 「現地に着いた初日、街で食事をした後に学校の車に迎えに来てもらったら、たまたま彼女が先に乗ってたんです。『あ、アグネス・ラムに似た子だな』と印象に残ってたんだけど、その翌日のクラス分け試験でもすぐそばの席にいて、さらにクラスが決まったら何と席が隣同士だったんですよね。もう『これは運命だな』と思ってね!」

 その後、ほかの同級生たちも交えて一緒に遊びに行ったりするうちに、自然とお互い惹かれ合うようになり、お付き合いが始まったという。そして、その女性は現在では「ミセス細井」、つまり細井氏の妻になっているのだ。

 「彼女と出会う前は、まさか自分がコロンビア人と結婚するなどとは夢にも思いませんでしたけどね!」

 こう語る細井氏だが、確かに何とも不思議な巡り合わせだ。高校生のときに見た大阪万博で国際感覚に目覚め、その7年後に米国の地を踏んだ細井氏が出会った将来の奥さんは、万博でひときわ印象に残っていたコロンビアという国から来た女性だったのだ。

 ちなみに、コロンビアの母国語はスペイン語。スペイン語が話せない細井氏と彼女との間の共通語といえば、英語しかない。こうなれば、もう必死で英語でのコミュニケーションにトライするしかない。

 「付き合い始めた当初、映画『ロッキー』の内容を拙い英語で必死に彼女に説明したんだけど、何と4時間もかかったんです。その後、結婚して10年後ぐらいにそのときのことを思い出して妻に話したら、『ああ、あのときあなたが話してた内容は、さっぱり分からなかったわ。でも、あまりに必死だったから分かったふりをしてただけ』と言われましたね!」

 細井氏がめきめきと英語力を身に付けた背景には、こんな「愛の力」が強力に働いていたに違いない……。ちなみにSITの語学研修コースを修了後、2人はお互い別々の学校に進み、さらに彼女は一足先に母国に帰国してしまったのだが、細井氏は学校の夏休みや冬休みの間、彼女と一緒に過ごすために、ほぼずっとコロンビアに滞在していたという。

 「学校の初めての夏休み期間中、彼女の実家があるコロンビアのカリ市に100日間滞在しました。このときの経験は、今でも強烈に印象に残ってますね。時間の進み方が、日本やアメリカの都市部に比べると、本当にゆったりとしているんです。あと、日本人の移民の方々が昔からまじめに働いてきたので、コロンビアには親日家が多いんです。それもあって、彼女の両親も日本人の僕との結婚を許可してくれたんだと思います。僕も彼女の家族とコミュニケーションをとるために、スペイン語を勉強したりもしました」

 もう既に奥さんのご両親は亡くなられているそうだが、今でもコロンビアの親戚とは頻繁に連絡を取り合っているという。

 「なので、僕にとって南米はとても身近な地域なんです。それに、南米にはまだ未開発の資源がたくさん眠っていますから、経済的にもこれからどんどん伸びる可能性があります。そういった意味でも、南米には注目しているんです」


 この続きは、2月4日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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