「日本テレコムがソフトバンクを買うつもりだった」?〜買収の内幕

» 2004年05月28日 19時59分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 ソフトバンクの日本テレコム買収で、印象的だったのは日本テレコム側の反応だ。社長として留任する倉重英樹氏は「双方の思いが合致した」結果だと話しており、買収を好感する姿勢を見せている。

 買収にいたるまでに、どのような交渉があり、ソフトバンクと日本テレコムのどのような思惑があったのか。両社のトップの発言から、探ってみよう。

「リップルに、Yahoo!BBを買ってくれと言った」

日本テレコムの倉重氏は、3月に社長就任記者会見を行ったばかり(3月8日の記事参照)。短期間で周囲の状況が大きく変化したことに、IT業界のスピードの速さを感じると話す

 倉重氏は日本IBM入社後、プライスウォーターハウスコンサルタント代表取締役会長に就任した人物。通信の分野にそれほど詳しいわけではなく、就任後は日本テレコムの現状把握に努めたという。そうして分析を進めるうち、“単体で事業を続ける”ことを疑問視するようになった。

 「日本テレコム(単体)でやっていくとなると、取り柄がないわけではないが、NTTやKDDIよりはるかに規模が小さい。それで事業をしていて、社会に対するインパクトは何なのか。面白みがあるのか」。単独で事業を継続するという選択肢の重要度は「下げざるを得なかった」という。

 同氏はまた、今後は固定電話の音声による収益でなく、業績を伸ばしている企業向けネットワーキングソリューションにフォーカスする必要があると判断。“ブロードバンド”へのシフトが重要と結論づける。

 「携帯(部門)をもっていない我々としては、重要なのはISPの世界、ブロードバンドの世界だ。ご案内のように我々はODNを持っている」

 そう考えたとき、Yahoo!BBという存在は魅力的に映ったという。日本テレコムは過去に、東京電力(パワードコム)に買収されるのではとも取りざたされたが(2002年5月23日の記事参照)、「パワードコムは“同質”であり、同質のものと一緒になると(抱えている)悩みもより大きくなるのかな、と」(同氏)。“異質”のものと一緒になった方が、夢が描けると考えたという。

 「リップルウッド(米Ripplewood Holdings)に、Yahoo!BBを買ってよといった。それが今回の買収のきっかけだ」(笑)。

 横でこのコメントを聞いていたソフトバンクの孫正義社長は、愉快そうに笑っていた。

 ソフトバンクの孫社長が日本テレコムを欲しがった理由は別記事で挙げたとおり。日本テレコムはソフトバンクの100%子会社として、ソフトバンクBBと同列に並ぶことになる。

 同氏は買収によって「よりプロフェッショナルな業界の専門家集団が我々に加わる。大変に安心のできる、強力な部隊ができた」とコメントしている。

会場では、倉重氏との信頼関係を強調した孫氏。正式な買収は11月に行われる予定だが、「明日から倉重さんと私とで打ち合わせを行い、さまざまな相乗効果が出てくる協力体制を構築したい」

 日本テレコムの運営体制は、大幅に変更する予定はないようす。リストラの有無を聞かれた孫社長は、「リストラ部門は、基本的にない」と明言している。

 同氏は来年4月に新卒3000人の採用を予定しているほか、中途でも1500人を採用することに言及(5月7日の記事参照)。現在は人材強化に努めているところであり、「リストラどころかまだまだ(人員が)足りない」と話した。

昨年の秋から「話」はしていた

 倉重氏は、社長就任時にはこの買収の話は「聞いていなかった」と話す。それでは、いつ頃から交渉が進行していたのか。孫氏は、2003年の秋頃には“話”があったという。

 もっとも、孫氏はRipplewoodのティモシー・コリンズCEOとは個人的に知り合いで、数年前から一緒に食事をして一般的な会話をする仲だったとコメント。

 「ティム・コリンズとは数カ月に一度のペースでお会いしていた。そういう中での“会話”はあった」として、明確な交渉とは異なるとした。

 報道陣からは「男女の交際もそうだが、互いに好意を持っていたとはいえ“どれが最初のデートか”は言えるもの。何時、どこで誰と誰が最初に交渉を行ったのか」と追求する声が上がった。

 これに対し、ソフトバンク側も日本テレコム側も明確な返答をしなかった。倉重氏は、「“結婚式”でも、『なれ初め』ぐらいは紹介されるかもしれないが『いつどこでデートをしたか』の詳細は言わないものだ」と発言。報道陣を煙にまいた。

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