電子書籍は、なぜ飛躍できないのか〜立花隆氏講演

» 2004年11月09日 02時40分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 「ΣBookにしても、LIBRIeにしても、期待されたほどは売れていない」。そんな風にズバリ言ってのけるのは、評論家・ノンフィクション作家の立花隆氏だ。

Photo 立花隆氏。LIBRIeという名前は意味が分かりづらく「ネーミングが悪い」とも

 11月8日に開催された電子書籍ビジネスコンソーシアムの講演に、立花氏が登場。同コンソーシアムの特別顧問としての立場から、「なぜ、電子書籍はいまひとつ飛躍できないのか?」をテーマに、歯に衣着せぬ物言いで問題点を指摘した。

どこに問題があるのか?

 今から1年前、電子書籍ビジネスコンソーシアムが発足したころ、出版業界では「ついに電子書籍元年が到来した」との期待がふくらんでいた。ΣBookやLIBRIeは、紙の書籍をすべて電子データに落とし込む「夢のサービス」を実現するためのツールとして、同コンソーシアムの期待を背負っていた。

 それから1年。それなりに電子書籍の市場規模は拡大しているが(9月30日の記事参照)、読書端末の普及度を見る限り、期待されたほどではないというのが立花氏の見方だ。

 「価格、読みやすさ、スピード(動作の反応速度)いずれも問題がある。デザインも、もうひとつという感じ。持っていて得意になるほどではない」

 同氏は電子書籍端末がいずれも4万円程度で販売されているとした上で、4万円だったらDVDプレイヤーが買えると話す。

 「韓国製なら、4万円より安い。そして、レンタルビデオ店に行けば100円単位のオーダーでソフトが揃っている」。何を競争相手として意識するのかが問題だが、少なくとも同じ“コンテンツ”としてDVDビデオと電子書籍を比較した場合「今のままではちょっと太刀打ちできない」。

「安売り路線」を変えろ

 ハードウェア面以外にも、見直すべき問題はある。立花氏は、「電子書籍といえば安いもの」という考え方を変えるべきだと説く。確かに、印刷や流通のコストがない分だけ安価にできるという側面はあるが、それをウリにすることは「間違い」(同氏)。

 「安く売ることで、それなりの成功はするだろうが、それではチープな商品を扱う、チープなマーケットにしかならない。それが電子書籍の大きな狙いとは思わない」

 同氏は“電子書籍は場所をとらない”という、もう1つの特徴に注目すべきだと話す。

 「紙の本は、ページ数が多くなるとハンドルしにくくなる。1000ページを超えると限界だ。しかし、電子書籍はいろんな統計資料とか、めちゃくちゃ情報量があるものも(記録媒体に)ぶちこめる。これは圧倒的な利点」

 たとえば、国立情報学研究所などが所有するデータは国の財産であり、税金を活用して収集したものだから、国民が利用する権利があると立花氏。これを電子書籍として利用できれば、ビジネスチャンスが生まれるという。

 立花氏はほかにも、法律や医学の膨大な専門書を電子書籍に落とし込めれば、5万円、10万円のコンテンツはすぐに作れると話す。

 「六法全書だけなら、(手のひらを広げて)せいぜいこのくらいの厚さ。だが判例集となると、ちょっとした法律事務所に行けば壁にずらーっと並んでいる。それが彼らの活動に直結して必要なわけだ。米国では既に、これらをどんどん電子化している」。この種の電子書籍には、本当の専門家なら数十万、百万円といったお金を支払うはずだという。

 法律関係の電子書籍といえば、弁護士を目指して勉強している学生向けのビジネスも成り立つと指摘。

 「世間では法科大学院みたいな、ああいうバカみたいなものがあって(笑)、『そこに行けばみんな弁護士になれる』という宣伝文句につられて、まあなれるわけがないから問題になり始めているわけだが……(笑)、そこにものすごい数の生徒が集まった。あの人たちはみんなローンを組んだりして学費を払っている」

 そうした人間を対象に「教えるエッセンスを押し込んだもの」を電子書籍として売り出せれば、10万円でも売れるだろうとした。

クロスプラットフォームでコンテンツ整備を

 立花氏は講演の終盤で、自分ならどんな電子書籍がほしいか――を披露する。

 その答えは「平凡社百科事典、ブリタニカ、OED・研究社の辞典、大日本国語辞典、諸橋漢和辞典、大修館シソーラス、六法全書、理科年表、矢野恒太記念会三大シリーズ、吉川弘文館……これらが全部入った究極の携帯電子書斎」。

 それを実現するため、各社がコンソーシアムを作ってクロスプラットフォームで情報を検索できるようにしてほしいとも要望する。

 「ただし、そういうコンソーシアムは上手くいかないもので……ここ(電子書籍ビジネスコンソーシアム)が上手くいっているのかは知らないが(笑)」。講演の終わりまで、鋭い風刺のきいたユーモア精神は忘れない立花氏だった。

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