WinnyはCD売上を減らさず〜慶應助教授の研究に迫る(1/3 ページ)

» 2005年03月29日 22時24分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 2005年3月、ドコモ本社内に設置された研究組織「モバイル社会研究所」で興味深い調査結果が発表された。ファイル共有ソフト「Winny」は音楽CDの売上枚数を減らしていない――というのがそれだ(3月8日の記事参照)

 研究を発表したのは、慶應義塾大学経済学部助教授の田中辰雄氏。携帯電話と社会との関わりを探るシンポジウムで、「著作権の最適保護水準を求めて」というテーマに取り組んだものだ。田中氏は研究で何を明らかにしようとし、またその結果からどんな考察を導いているのか。本人に聞いた。

Photo 慶応助教授の田中氏。自身ではP2Pソフトを利用しないという。「研究室の学生がやっているので、今回の研究でいろいろと教えてもらった」

 P2Pをめぐっては、これまでも多くの議論があった。コンテンツの配信形態としては優れているという主張がある一方で、違法コピーの横行を招くという批判もまた根強い。特に多くのユーザーが利用するP2Pソフト、Winnyをめぐっては訴訟問題も起きている(2004年9月1日の記事参照)

 田中氏はP2P批判、Winny規制の動きを「既存の著作権者の警戒心が強すぎるのではないか」と考えたと話す。これが研究を始めるモチベーションになったという。

 「ビデオが登場した時、ハリウッドは『ビデオが出回ると映画館に客が来ない』と反発したと聞く。今では映画を製作する際、ビデオの収入を当て込むケースも多い。音楽レコードが登場した際も、演奏家の反対があったたという記録が残っている」

 歴史は繰り返す。P2Pもビデオやレコードがそうであったように、「正当な理由なく」毛嫌いされている可能性があるというわけだ。

経済学的アプローチ〜社会全体利益の最大化

 ここで田中氏は経済学者らしく「社会全体の利益の最大化」という概念を持ち出す。情報財(コンテンツ)は、コピーして共有化することがユーザーの利益拡大につながる。ただし、ある程度の独占権を創作者に認め、創作者利益を高めなければ創作する気が起きないだろう。

 従って、ユーザー利益と創作者利益の、双方を考えて両者の総和(=社会全体の利益)が最大になるポイントを見定める必要がある。この考え方が、研究の大前提となっている。

Photo

 「アジアの特定の地域では、違法コピー天国で“グラフの左に寄りすぎ”と考えられるところもある。日本ではどのあたりなのか。右に寄りすぎなのか、比較的左にあるのか、それを判断したいということ」

 ポイントになるのは、この概念をどう計数データに置き換えるかで「ここが大変難しい」。田中氏の研究では、“CD売上”と“P2Pのダウンロード数”の関係を見ることでこの問題にアプローチしようとした。

 各楽曲のダウンロード数をX軸に、CD売上をY軸にとってグラフ上にプロットすると、結果は下図のようになった。

Photo

 研究にあたっては、CD売上はオリコンのベスト30に入ったCDの売上枚数データを、ダウンロード数は対応する楽曲でのWinnyのダウンロード数をとった。

 「Winnyでは流通しているファイルのサイズと総流通量(被参照量)が表示されるので、後者を前者で割ってやればその時点でのダウンロード数が分かる。もちろんネットワーク全体の総数を把握することは難しいが、傾向だけでも突き止められるということ」

 統計的弱みをなくすため、学生5人が毎週日曜に自宅からWinnyでアクセスを行いデータを収集したという。

 このグラフから、何が読み取れるだろうか。

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