WinnyはCD売上を減らさず〜慶應助教授の研究に迫る(3/3 ページ)

» 2005年03月29日 22時24分 公開
[杉浦正武,ITmedia]
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 なぜ、Winnyの音楽ファイルダウンロードがCD売上を減らさなかったのか。田中氏はこの理由として、CD購入者とWinnyユーザーは需要が異なるという仮説や、Winnyには宣伝効果があるとする仮説などを立てる。

 「実際、米国では中堅以下のアーティストがファイル交換ネットワークに作品を流すと、売上が増えるという。トップアーティストの場合は売上が減るようだが……」

もし自分が学生の頃P2Pソフトがあったら?「こんな楽しいものはない、と熱狂的に使っていたかもしれませんね」(笑)

 ここで注意したいのは、田中氏の研究は「著作権否定論」をふりかざすものではないこと。著作権を全廃すると、社会全体利益の総和は減ってしまうだろうことは田中氏も認めている。要は最適水準論であって、「だからWinnyを積極的に促進して違法コピーを増やしましょう」という議論でもない。

 「現状程度のファイル交換を、抑制する必要はないということ。これは個人的な考えにすぎないが、大規模で、組織的なコピーは取り締まらなければならない。しかしソフトウェア開発者の逮捕や、それほど悪質でない個人ユーザーの訴追は必要ない」

 もちろん、この考え方はあいまいに過ぎるきらいもある。実際に法学者から批判も出ているようだ(後述)。

 もう1つ田中氏が考えているのは、著作権者はファイル交換の違法コピーを恐れるべきでないということ。どうしても防げない私的コピーは“宣伝費”ぐらいに思って、覚悟してネット配信の道に進むべきではないかという。

発表後の世間の反応は

 モバイル社会研究所での発表以来、田中氏のもとにはさまざまな反響が寄せられた。経済学者の間では、数字を見て「なるほどそうかもしれない」というリアクションが多いが、法学者やビジネスサイドなどからは反発もあったという。

 法学者からの批判としては、“現状程度のファイル交換を認める”という抽象的な判断では、法制化できないというもの。法律は個別の行動について、いいか悪いかしかない。この点を考えだすと、著作権法の改正が必要になるのだという。

 「ビジネスサイドからの批判で内容があったものは、『Winnyが被害を与えるのは、CD売上でなくレンタルCD市場、もしくは将来的な音楽配信サービスでないか』というもの」

 この可能性は確かにあり、今後調べてみなければなんとも分からないという。

 とはいえ、田中氏は経済学者としてWinnyを「計数的に」議論したことがポイントだと話す。「実は、知的財産権の話ではこうした(社会全体利益の最大化といった)議論はよくある。著作権の分野でもこうした観点を持ち込んだことで、論争を一歩前進させられたのではないか」とした。

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