ドコモとauで異なる視点──キャリアに聞くモバイルコマース戦略

» 2005年11月04日 22時54分 公開
[富山隆太,ITmedia]

 急拡大するモバイルコマース市場を巡り、モール、ショップ、システムベンダーなどが激しい陣取り合戦を繰り広げている。そんな中、携帯キャリアの戦略や方針には明らかな違いが出始めている。

 ここでは、拙著「いま儲かる!! ケータイ通販」で行ったNTTドコモコンテンツ担当部長の山口義輝氏とKDDIコンテンツ・メディア事業本部ECビジネス部の長島孝志部長へのインタビューをもとに、両社の違いを明確にしていこう。

両社の視点とアプローチ方法

 「(iメニュー内の通販サイトは)間違いなく2年で2倍以上にはなっています」(山口氏)というように、ここ1〜2年のモバイルコマース市場はめざましい成長を続けている。

 携帯電話が定額時代を迎え、キャリアが「ARPUプラスα」という新たな収益源を模索する中、市場規模を伸ばし続けているモバイルコマース市場に注目するのは当然の流れだあろう。ただ、ドコモとauには、その視点や立ち位置に大きな違いがある。

 インタビューで面白かったのは、「未開拓層である高齢者が今後モバイルコマースを利用するようになるのか」という質問に対する両部長の答えだ。ドコモの山口氏は、高齢者がサイトを使いこなすことは難しいだろうという立場だったが、KDDIの長島氏は、モバイルコマースには「リテラシーの壁」を超える魅力があると考えている。

 「メールのことを考えてみてください。いまではお年を召した方も使いこなしている。これは“誰かとコミュニケーションしたい”という気持ちが、人間にとって普遍的なものだからだと私は思っています。それは買い物も同じ。何かを買うという行動もまた、普遍的なものだと思います。壁紙や着うたといったデジタルコンテンツと違い、60歳、70歳の人でもリテラシーの壁を乗り越えて必ず利用するようになるはずです」(長島氏)

 そして、市場へのアプローチ方法でも両社には大きな違いがある。2003年に「auでオカイモノ」というショッピングポータルを立ち上げるなど、自ら積極的に当事者として市場に参加しようとするauに対し、ドコモはモバイルコマース市場とは一定の距離をとり続けてきたように見える。

ドコモの狙いは、リアルもネットも金融業

 インタビューの中でも、ドコモの山口氏は「ドコモとして“auでオカイモノ”のようなものをやることはないでしょう」と話す。11月末にはiモードの“とくするメニュー”内で、モバイルコマースサイト専用の広告枠“とくする通販”が始まるとはいえ、運営主体は関連会社のディーツーコミュニケーションである。その上で、今後ドコモがモバイルコマース市場にどう関与していくのかといえば、その答えは、決済手段の提供にある。

 「決済手段を増やしていくのが重要な課題といえます。例えば、おサイフケータイにチャージしたお金を携帯通販サイトで使えるようにするとか、そういう利便性の部分で市場を盛り上げていけばいい」(山口氏)

 ドコモは、三井住友カードとともにおサイフケータイ用の新クレジットブランドを立ち上げる計画を持っているが(4月27日の記事参照)、おそらく山口氏の言葉はこれを念頭に置いたものであろう。モバイルコマース市場におけるドコモの立ち位置は、インフラ提供者であると同時に金融業者なのである。おサイフケータイを取り巻く最近の動きからも、同社のこの戦略は揺るぎないものであることが分かる。

“auでオカイモノ”は、モール事業へと進化

 auも、10月末にKDDI・ボーダフォン・JCBほかクレジットカード会社10社で構成された、非接触ICカードを使った決済の共通化を目指す「モバイル決済推進協議会」への参加を発表したが(10月25日の記事参照)、こちらはインフラを整える携帯電話事業者としての参加。金融業に急接近するドコモとは違う。

 同社の戦略は、「auでオカイモノ」の延長線上にあると考えるべきだろう。それはつまり、ショッピングポータルからショッピングモールへの進化である。楽天やYahoo!ショッピングと同じ土俵に上がるということだ。

 「いま何が売れていて、今後はどうなるのかということを我々は分析できるわけで、今後はこの情報をショップにフィードバックしていく仕組みが必要になるでしょう。そのほかにも、1店舗ではできないことがたくさんあります。我々がモール事業を展開して、こうした問題を解決していくのは十分に考えられることです」(長島氏)

さらなる市場拡大は必至

 アプローチの方法に違いはあれど、両者がモバイルコマース市場に本気で取り組んでいることに間違いはない。

 今まで課金システムやポータルなどインフラが整っていない状況のなかでも、成長を続けてきたモバイルコマース市場なのだから、キャリアが環境整備に努めたときにどう化けるのかは容易に想像できる。この市場が、来年大きく飛躍する可能性は高いわけだ。またボーダフォンやウィルコム、新規参入組がどんな取り組みをしてくるのかにも注目が集まる。

 また、よりミクロな視点では、現場のショップがどのようにモバイルコマース市場に取り組んでいるのかも、今後の市場の拡大規模を見極める上で重要なポイントとなる。拙著「いま儲かる!!ケータイ通販」に、携帯通販で成功している23サイトへのインタビューを掲載しているので、ぜひ参考にしてもらいたい。

ケータイ通販の“今”が分かる──「いま儲かる!! ケータイ通販」

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