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» 2007年04月24日 14時48分 UPDATE

神尾寿のMobile +ing:それは“ドコモらしい反撃”──「2in1」とFOMA 904iシリーズ

大手携帯3キャリアの先陣を切って夏モデルを発表したドコモ。番号ポータビリティ戦線の序盤では苦戦を強いられた同社だが、新たに「DoCoMo 2.0」を掲げ、もっともドコモらしい戦い方で反撃ののろしを上げた。

[神尾寿,ITmedia]

 4月23日、NTTドコモが2007年夏商戦モデルになるFOMA 904iシリーズを発表した(4月23日の記事参照)。903iシリーズの発表からわずか半年。派生モデルも含めれば、まだ903iシリーズがすべて店頭に出そろっていない中で、ドコモはこれまで夏商戦向けモデルの通例であった「iS」のマイナーチェンジ番号を飛ばして、「904i」と世代番号を繰り上げた。

Photo 「DoCoMo 2.0」のロゴを背に、904iシリーズを紹介するNTTドコモ執行役員 プロダクト&サービス本部マルチメディアサービス部長の夏野剛氏

 NTTドコモ執行役員 プロダクト&サービス本部マルチメディアサービス部長の夏野剛氏は、「(904iは)それだけ大きな変化であること」と豪語する。904iシリーズとあわせて展開される新たなキャッチフレーズ「DoCoMo 2.0」も、訴求するところは変化と進化だ。

 904iシリーズは、HSDPAやワンセグを全機種共通の標準仕様として搭載しない。またモーションセンサー搭載の「直感ゲーム」や、定額制音楽配信サービス「うた・ホーダイ」も、新しい取り組みであるがコンセプトが斬新なわけではない。そのため端末機能や個々のサービスの強化だけを見ると、904iシリーズは“iS級の変化”にしか感じられない。実際、質疑応答でも、HSDPAやワンセグが全機種搭載でないことから、904iシリーズへの世代繰り上げを疑問視する声はあった。

簡単そうに見えて、実現困難な「2in1」

 しかし、今回投入された「2in1」をしっかり見ると、904iシリーズが、世代繰り上げが妥当なモデルであることが分かる。既報のとおり、2in1は2つの契約者番号を1台の携帯電話に“完全な形で共存”させるものだ。一見すると単純なサービスのように感じるが、ネットワーク側で付加番号を割り当てるのではなく、あくまで別個の契約者番号として取り扱い、端末上でも“2つの番号”として機能の切り分けと共存(デュアルモード)を実現している。これは端末、ネットワーク、顧客管理システム、店頭でのオペレーションから各種サービスの約款まで、大幅な見直しと改修が必要なサービスである。

 例えば、ネットワークやシステム側は2番号対応に改修できても、2in1の「2番号の切り分けと共存」を違和感なく・使いやすく提供するには端末側の作り込みが欠かせない。しかもそれは、アドレス帳や発着信機能、メール機能など携帯電話のレガシーな部分まで手を入れる必要がある。さらに2番号でA・B・デュアルの3モードを提供することで、端末の開発と検証行程は大幅に複雑化する。

 また、あまり注目されていないが、店頭オペレーションや各種サービスの約款の見直しも重要な課題になる。2in1で既存番号に追加して新規番号を取る場合は「1契約の追加」なので単純だが、既存の2つある番号を2in1でまとめる場合は、ドコモポイントや経年割引、いちねん割引の取り扱いが変わるからだ。また2in1に、番号ポータビリティ(MNP)でポートインさせた番号を追加する場合も、そもそもMNP開始時のスキームにこのようなサービスが想定されていないので、店頭でのオペレーションが変わる。2in1の実現では、すべての契約パターンを想定して約款の取り扱いを見直し、ドコモショップをはじめとする全販売チャンネルのオペレーションの見直しと研修が必要だ。その作業量は膨大なものになっているはずである。

 このように2in1は、傍目以上に実現が困難なサービスだ。きちんと整合性を取り、検証を行わないと、必ずどこかで混乱やトラブルが発生する。夏野氏が「他社にはそう簡単には(追随)できないと思う」と発言したのは、彼流の挑発ではなく、紛れもない事実だろう。

注目は2in1の「法人対応」

 2in1はドコモにとって、「将来への布石」にもなっている。

 まず大きな役割は、着実に増えてきているダブルホルダー需要への対応だ。携帯電話が生活や仕事に欠かせないツールとして成熟した結果、ビジネスとプライベートや、プライベートでもTPOに応じて携帯電話を使い分けたいというニーズは着実に増えている。そこにウィルコムや、月額980円の「ホワイトプラン」を打ち出したソフトバンクモバイルは“2台持ちの2台目”として食い込んでいるが、すでに獲得シェアが大きいドコモは2in1による「1台2契約持ち」で回答を出したというわけだ。

 しかし現在の2in1は、このダブルホルダー需要を完全に狙うには、バランスを欠く部分もある。2in1を利用するには「契約が同一名義である」必要があり、個人契約と法人契約で別々の契約名義で2in1を組むことはできない。この点について夏野氏は、「法人需要については理解している。将来的には別名義で(2in1を)組めるようにしていく」と言明した。

 現在の携帯電話のビジネス利用は個人契約を仕事でも使う“ビジネスコンシューマー”が中心であり、その層に対しては現行の2in1が訴求できるだろう。しかし、今年は法人契約が大きく伸びてきている。ドコモが早いタイミングで2in1の「個人・法人」契約組み合わせを実現し、しかもその場合の料金プランが戦略価格で設定されたら、それは個人・法人どちらの市場でも「台風の目」になる可能性がある。

 ドコモが2in1の個人・法人対応を、どのタイミングで行うか。これは今後の各キャリアの競争を見る上で、重要な要素になりそうだ。

それはドコモらしい反撃

 2in1、そして904iシリーズを俯瞰すると、ドコモが再び「ドコモらしくなった」と強く感じる。「ネットワーク」「サービス」「端末」の統合と協調を重視し、開発から販売、サポートまで足並みをそろえる。手間とコストをかけて、これまでにない新サービスを投入するという重厚な姿勢だ。

 また端末ラインアップでは、「N904i」と「F904i」の機能・商品力の向上が著しく、それに加えて「D904i」の洗練も好印象だった。今回はラインアップ数が絞られたこともあり、かつて“ドコモファミリー”と呼ばれたメーカー各社の復権を感じる内容だった。特にNECと富士通は、先代までとはうってかわって魅力的な端末に仕上げており、これが市場に評価されれば、ハイエンドモデルの分野でやや低迷気味だった両社にとって復活の呼び水になりそうだ。

 ドコモはこの数年、他社のスピードに翻弄され、多くの分野で後手後手のキャッチアップを繰り返してきた。しかし、ドコモはドコモであることを否定し得ず、ドコモらしい戦い方で反撃に出た。機動戦や奇襲ではなく、資金力と規模の力で「新しいステージを作る」という正面突破である。その点で、DoCoMo 2.0というキャッチフレーズは、ドコモらしさの再出発と見ることもできる。

 ドコモらしい反撃に、auはどう応じるのか。さらにソフトバンクモバイルが再び“奇襲”をかけるのか。夏の戦いは始まったばかりだ。

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