「ケータイ持たせない論」に見る大人教育の困難 小寺信良の現象試考(2/3 ページ)

» 2008年12月15日 10時30分 公開
[ITmedia]

 もう1つは、それをいつまで続けるのか、終わりが見えないことである。いつまでというのは「高校生まで」ということではなく、その地域の小中学生は2030年とかになっても携帯なしなんですか、ということである。

 こういう制限というのは条例化されたりすると、ルールとして硬直化してしまう。つまり一度決めたことを、誰が「もう辞めましょう」と言い出せるのか。携帯電話はエロ本とは違うので、警察の取り締まりマターで基準が決まるものではない。「このぐらいOKになりました!」という境界線の判断を、その地域の誰が行なうのだろうか。

 おそらく辞めるために再びバカバカしいぐらいのエネルギーを使うか、ルール自体が形骸化してなし崩しになっていくか、ということであろう。それなら最初から、暫定でもいいから期限を決めておくべきである。

 与えることも与えないことも、それぞれにメリット・デメリットがある。メリット・デメリットを考える際にもっとも大きな障害になるのが、子供に携帯を持たせないで育てきった、もう少し年上の子供の親である。この層は「子供の要求に屈しなかった」、「それでもうちの子はちゃんと育った」という絶対的な自信を持っている。

 しかし携帯電話は、急速に普及したから問題を生んでいるわけであり、今大学生ぐらいの人たちが小中学生だった頃とは事情が違う。だが年齢的には数年しか違わないため、子どもがそれほど違うはずがない、という前提に基づいた判断をする。この普遍的な自信は、子育てを終えた親には共通に見られる傾向だ。

 人としての子供は変わらないが、子供社会が変わってしまったのである。多くの大人は、そこが受け入れられない。

「学校に持ってこない」は有効か

 昨今ネット世論を賑わしたのは、大阪府の橋下知事が打ち出した、府内の公立小中学校で児童の携帯電話持ち込みを原則禁止する方針である。最近の調査では、親の7割がこれに賛成しているそうである(小中学校にケータイ持ち込み禁止、大阪府の保護者7割が「賛成」)。この議論で誤解してはならないのは、小中学生に携帯を持たせないということではなく、単に学校に持って来ないようにする、というだけのことである。

 筆者の個人的な感想を言わせていただければ、そんなことしても何も変わらないし、見当違いなことに大騒ぎしてもしょうがないと思っている。理由を説明していこう。

1. 制限するのはそこじゃない

 今回の携帯持ち込み禁止の方針を打ち出した背景は、大阪府教育委員会の「携帯・ネット上のいじめなど課題対策検討会議」が出した「とりまとめと提言」に基づいたものである。ここの「提言1」として、「小中学校は、学校への児童生徒の携帯電話の持ち込みについては原則禁止、府立学校は、校内において、原則使用禁止」とある。

 とりまとめでは、「携帯依存が進行しており、学習時間が減っている」という調査結果を出しているが、そもそも学習時間が減っているというのは家庭内のことであり、学校でのことではない。そもそも学校では、携帯電話をいじくる時間は休み時間の10分間に頑張るか、昼休みの30分ぐらいのことである。学校生活は、それほどヒマではないのだ。

 携帯依存の問題を気にするのであれば、家庭内での時間制限などを行なわなければ、意味がないのである。

2. いじめの解決にもなってない

 対策検討会議の名称が物語るとおり、そもそもは「ネットいじめ」に対する実態調査と対策が課題である。しかしネットいじめと携帯を学校に持っていくことには、ほとんど関係がない。なぜならば、根本的に「リアルいじめ」の延長で「ネットいじめ」があるわけで、それぞれが独立して存在しているわけではないからである。

 これは個人的な体験からも断言できるが、ネットいじめが深刻なのは、いじめが学校だけで終わらないことである。携帯電話がない世代にもいじめはあったが、家にまで押しかけていじめるというケースはなかった。家庭は安住の地であり、親と一緒にいることで心の平穏が保たれ、家族愛の中で子供は自分の価値を知る。しかし携帯電話によるネットいじめは、家庭にいる時間にまで執拗に訪れるから、問題なわけである。

 学校に携帯を持ち込まないことは、この問題解決にほとんど影響を与えない。まあ強いてあげれば、お互いのメールアドレスの交換が多少不自由になるぐらいのことである。

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